後ろ姿

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2025年1月8日

  「母さん、少し小さくなった?」そう思ったら、気にしてほしいことがあります―。昨年暮れの全国紙の、ある乳業会社の広告。髪の白くなった母が台所で洗いものをする後ろ姿の大きな写真に、ついいろいろなことを考えさせられた。

   さだまさしさんは「無縁坂」で、手をつないで坂道を歩いた母のことを「白い手はいつも柔らかだった」と歌った。母の手は柔らかさだけでなく、優しさやかなしさもしっかりと握りしめて、教えてくれた―と。老いて小さくなっていく親のことが気になる時は誰にでも来る。

   年を取って、体調が思わしくなくなると病院で身長や体重を測られる回数が多くなる。性別とは関係ないようだ。測定後の医師の指導は「体重を少し減らしましょう」。そんな内容が多かった。肥満を指摘される時期を過ぎると次は身長の減り始める時期。看護師さんの表情が硬くなるのは、説明が長くなるからだ。

   母だけでなく父だって小さくなる。正月の茶の間で、帰省した家族とテレビを見たり、孫と遊ぶ父の背中が小さく見えた人がいたかもしれない。身長が若い頃より2センチ以上減るのは骨密度低下の証拠とか。思いがけない転倒や骨折に注意が必要な年頃だ。後ろ姿の大きさや背中の筋肉の衰えは自分には見えにくい。(水)

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