昨年4月、末っ子の育児休暇が明けて職場復帰し、あっという間に1年が経過しました。ウトナイ湖野生鳥獣保護センターでのこの1年間を振り返ると、やはり一番大きな出来事といえば、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、2002年の開館以来、初の1カ月近くにもわたった臨時休館でしょうか。一度は通常開館に戻ったものの、再度臨時休館中となっておりますが、一層の感染症対策に努めながら、また皆さまをお迎えできるようスタッフ一同願っております。
そしてこの次に、特に救護室にとって大きな出来事もありました。それは、かつてより念願だったエックス線装置の医療機器が導入されたことでした。これは、主に骨格や組織の異常を判断するための検査装置で、人の医療現場ではもちろんですが、動物病院でも標準で設置されている機器です。
しかし、私が当センターに勤めた頃は、それまで専属の獣医師がいなかったり、「治療」ではなく「リハビリ」を専門にしていた施設だったりしたということもあり、医療機器の備えは十分ではありませんでした。そのため、野生動物を診るのに重要だったのが、「視診」や「触診」といった目や手などの感覚と知識や経験を生かした手法でした。しかも相手はもの言わぬ野生動物。これまでの暮らしぶりやけがをした経緯の情報はありませんし、どんなに重傷でも人に弱みを見せることもありません。そんな彼らを診る難しさに直面しながらも、医療環境が充実していないからこそ、ずいぶんと勉強させてもらいました。それでも、高度な検査や治療が必要な際は、その都度、市内の動物病院に個体を搬送し協力をいただいてきたのですが、ついにこの度、エックス線装置の導入となり、当センターでの診断技術の格段の向上と、迅速な対応をも可能にしたのです。
しかし、今後の救護活動においてもやはり大切なのは、人が診る力。けっして機器だけに頼ることなく、そして日々の精進も怠ることなく、これからもやってくるであろう傷ついた野生動物たちと懸命に向き合っていきたいと思います。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)