帰省

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2020年4月8日

  さだまさしさんの曲「案山子(かかし)」の、優しい詩と旋律が先日、テレビから聞こえてきた。「元気でいるか 街には慣れたか 友達出来たか―」

   首都圏の私立大学に2019年度に入学した下宿生への仕送り額の平均は8万5300円―。東京地区私立大学教職員組合連合の調査結果が先頃、発表された。1986年度の調査開始以来、2番目に低い水準だった。過去最低だった前年度を2200円上回ったものの、最高だった94年度に比べ、3万9600円も少なかった。

   わが家が仕送りに追われたのは20年ほど前のこと。いくら送ったのだろう。金額はもう忘れた。久しぶりに帰省した子どもが、どんな緊張から解放されたのか、安心し切ったネコのように居間などで眠り続ける様子を覚えている。

   今年は新型コロナウイルスに振り回される春。きのうは国が緊急事態を宣言した。授業は5月の連休明け以降になる大学が多いようだ。孤独と空腹に加え、思いがけない空き時間に戸惑っている18歳も多いに違いない。静岡県や佐賀県では帰省した学生らが家族に感染を広げたとの報道があった。宣言を受けての急な帰省や都市からの疎開が増えると新たな感染集団をつくり、地方の医療を破壊する可能性も―と心配されている。

   ウイルス舞う異郷に、かかしのように寂しく立つ子と、案じる古里の親の頭上にも新型肺炎の黒い影が広がる。改めて冷静に。(水)

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