想像

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  • 2020年1月15日

  医療関係者や認知症という病気に関わったことのある方なら「長谷川式」という言葉をご存知のはず。認知症研究者の名前を冠した判定方法の名称だ。

   その長谷川和夫さん(90)が認知症患者として闘病している様子が先日、NHK総合テレビで放送された。「認知症の第一人者が認知症に 葛藤と希望と 一年間の感動密着記録」。最前線の医師の闘病の様子に、改めてこの病の広がりと深さを考えさせられた。

   依頼されて講演会の講師を務めることなどを除けば、他の患者さんと変わりはないに違いない。家族との関係では、とりわけ娘さんとの意見の食い違いが印象的だった。自宅で転倒し、顔を強打して負傷した直後もカメラの前に立った。医師の立場では利用を勧めていたデイサービス施設で、ゲームにつまらなさそうに取り組む様子も、ありのままに放映された。

   身内に認知症患者がいた。何度か見せたつらそうな表情を忘れない。家族が会話の糸口に「誰か遊びに来た?」「私の名前は?」などと声を掛けたりする。本人は、記憶の中から誰の名前も探し出せないことがつらいのに。暗い表情で「情けない」と言っていた。

   朝日生命保険が昨年、40~50代の約1100人を対象に行った調査で、約60%が「いつか親が認知症になり、誰かに迷惑を掛けてしまうのでは」との不安を持っていたそうだ。誰でもが認知症になりうる時代。改めて想像する。(水)

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