再検討

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  • 2019年10月16日

  「もし、このダムが決壊したら下流にどんな被害が及ぶんでしょう?」。昔の勤務地での、ダム建設工事関係者との思えば恐ろしい会話を思い出した。

   台風19号の被害が拡大し、15日までに洪水や土砂崩れなどによる70人以上の死亡が確認された。新聞やテレビには泥まみれの建物や田畑の写真が並ぶ。途方に暮れた被災者の言葉や表情がつらい。

   気象庁は当初、この台風を「狩野川台風に匹敵する」と類似点を挙げ警戒を呼び掛けた。狩野川は伊豆半島にある延長50キロ弱の川。1958年9月末、この川付近に台風が上陸した。理科年表には、静岡県中心に近畿以北の広い範囲で死者888人、行方不明381人―と被害が記録されている。

   今回の台風では全国7都県の、国管理河川を含む55河川の堤防が79カ所も決壊し、ダムの緊急放流も6カ所で行われたと報道されている。神奈川県内のダム緊急放流で、時間が繰り返し変更されるのをテレビで聞きながら、往事の会話の恐怖を、ふと思い出した。

   冒頭の質問への答えは確か「深さ4メートルほどの岩やコンクリート混じりの濁流が市街地を襲う」だった。高く大きなダムや堤防は安心や安全の象徴に見える。しかし、管理の在り方によっては、別の危険を背負うことでもある。異常気象と大型災害の時代。遠くの高い堤防や、上流の大きなダムも確認し、住み方や逃げ方を再検討する必要があるのかもしれない。(水)

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