女子アイスホッケーのミラノ・コルティナ冬季五輪最終予選が9日までネピアアイスアリーナで行われた。日本代表「スマイルジャパン」は出場4カ国中破竹の勢いで3連勝の1位となり、五輪出場権を手にした。戦いぶりと今回につながったチームの強化活動を振り返る。
■「『圧倒して勝つ』―。」
代表が掲げた目標だ。過去3大会連続で五輪出場権を獲得してきた日本にとって今回のミラノ・コルティナ冬季五輪最終予選突破はまさに最重要課題だった。
最終予選本番を迎えるまでは12月に行われた4カ国対抗トーナメントで1勝2敗。最終予選でも当たった格下のフランス相手にも2―3で延長負けを喫するなど本番の約2カ月前まで「得点力」不足は課題として残り続けた。
しかし、蓋を開けてみれば3試合合計17得点の2失点と圧勝。〝目標〟を体現する試合内容だった。
五輪出場が決まり、飯塚祐司監督(50)は「ほっとしている」としつつも「最終予選に出ること自体が『屈辱』だった」と踏まえる。前回北京五輪は直前の世界ランキング6位で自動出場圏内。そのため最終予選を経験するのは8年ぶりだった。
■海外遠征減少の逆境
今回の最終予選までのスマイルジャパンを取り巻く環境は8年前と大きく異なる。
平昌五輪最終予選前の1年間は4回の海外遠征を実施。スイスやチェコなど当時は日本より格上の強豪国と手合わせを重ねて実戦スキルを強化した。それが今シーズンは予算面の制約を受け、昨年12月に行われた4カ国対抗トーナメントのみ。加えて参加3カ国はフランス(世界ランキング13位)、ハンガリー(同10位)、デンマーク(同11位)といずれも日本より格下の対戦国とあって「手応えを探れないまま、どこまでできるか分からない状態だった」(飯塚監督)と五輪出場決定後に本音を漏らした。
海外遠征が満足に行えない中、苫小牧市のネピアアイスアリーナなどで毎月行われてきたユーススキルアップキャンプで地力を高めてきた。キャンプ中は市内の男子高校生と練習試合を行い、実践感覚を磨いた。飯塚監督も「体を素早く動かすポジション取りはレベルアップできた」と実感を込める。
監督は1年後の五輪を見据え「若い伸びしろのある選手を集めてどんなポテンシャルがあるのか見極めたい」。それを実現するためには現在の強化合宿の質と量を充実させる必要がありそうだ。
最終予選後に達成度を問われた指揮官は「80%ぐらい」。フランス戦、中国戦でそれぞれ1失点と大会前の目標として掲げたパワープレーでの得点が無かったことを2割の反省点として挙げた。
五輪本番では格上の強豪国と戦う。五輪と同じフォーマットで行われている世界選手権ではベスト8止まりの日本。「そこの壁を破らない限り、『メダル』は簡単に口にできない」と冷静に次を見据えた。
■若手、ベテラン一体化
「若い選手のパワーがすごかった。一体感があるのが今のチームのいいところ―」。DF小池詩織主将(道路建設ペリグリン)は誇らしげに語った。チームがここまで団結するまでは苦難の道のりだった。
北京五輪後に多くの歴戦メンバーが去ったスマイルジャパン。8年前の最終予選を経験していない選手17人が新たに加わり北京五輪当時25・9歳だった平均年齢は23・7歳に。
代表メンバーが大幅に若返ったことで「世代ごとにまとまる傾向があって、打ち解けるのに苦労した」と31歳の小池は明かす。
小池がチームの雰囲気を改善するために取り入れたのが、SNSを中心に若い世代に人気のMBTI(性格診断ツール)だ。
選手一人一人を個性やキャラクターを分析。その結果に基づいて「カウントダウン係」「チームスローガン係」「モチベーション維持係」「アイデア係」などの役割を与えたという。
23歳のFW志賀紅音(ルレオ=スウェーデン)は「上の年代の選手が下の年代の選手もプレーしやすいように話し合いの機会をつくってくれている」と信頼を語る。
初戦のフランス戦でも20歳のFW伊藤麻琴(トヨタシグナス)が先制弾。流れを日本に引き寄せると、22歳のFW輪島夢叶(道路建設ペリグリン)が続いた。この試合で得点した5人中4人が五輪、さらに最終予選も未経験で底上げ成功を強く印象づけた。大会後に小池は「みんな堂々とプレーしていた―」と胸を張った。
五輪本番まであと1年。きのう早朝に休む間もなく冬季アジア大会開催地の中国へ向かった日本代表。4月には世界選手権も控えている。見据えるのはミラノ・コルティナ冬季五輪への一層の強化だ。