先日、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターに市民の方から1本の電話を頂きました。内容は、職場の近くに数日前から姿を見せている野鳥が翼をけがしているようだということ。そして、「足がない」ようだということでした。
当センターには時折、「足がない」野鳥の問い合わせがあります。一番多いのが、水鳥の一本足について。水鳥の中には、休憩などで片足立ちをすることがあります。その際、上げている方の足がすっぽり体の羽毛に収まることで一本足に見えることがあるため、心配で相談を頂くことがあります。これに関してはまったく問題ないのですが、本当に足がない場合もあります。何かしらの原因で負傷などすると、患部の先が壊死し、脱落してしまうことがあるのです。
今回、当センターに搬入されたのは、海岸や港などで見られる代表的な水鳥、オオセグロカモメ(カモメ目カモメ科)でした。そして電話にもあったように、右の翼には外傷が、右の足先はかかとの少し先から欠損し、「足がない」状態でした。
翼の外傷に関しては、まだ新しい出血跡もあり、おそらくこの数日のうちに負ったものと考えられましたが、欠損している足は、すでにかなりの日数がたっている状態でした。なぜならば、欠損部位はすでに傷跡もなく、皮膚で完全に覆われていたからです。また、残っている方の足の裏は、地面に接触する複数の箇所の皮膚が硬く分厚くなっており、長期にわたりこの足だけで全体重を支えて生きてきたことを示すものでした。
その後のレントゲン検査では、翼と足に骨折を確認。その折れ方から、いずれも強い衝撃を受けたことによるものと推測されました。おそらく過去に交通事故などが原因で足を負傷し足先が脱落。数カ月から数年、片足だけで生きていたと思われますが、この数日のうちにまた事故などで翼を損傷し、ついには回復することなく死んでしまいました。
大きな苦難を乗り越えながらも、一本の足だけで懸命に生きていたオオセグロカモメ。厳しい自然環境の中、リスクを負った体で生きてきた生命力の強さに驚くばかりですが、その外傷の原因におそらく人間活動が密接に関わっている現状に胸が痛みます。自然界に生きる生きものたちが、安心して暮らせる環境づくりの大切さを改めて強く感じました。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)