5月5日、サクラが舞う苫小牧市清水町の緑ケ丘公園金太郎の池で開催されたまつりのステージでマイクを握った。約2カ月半前に東京の音楽レーベル「エレックレコード」からインターネット配信デビューを飾った自身のオリジナル曲「生きる力~Just Live the way」を歌うためだ。中学時代に初めて同級生とバンドを組み、人前で歌った思い出が忘れられず、あの「衝動」が今も気持ちを奮い立たせる。
空知管内由仁町出身で、3人きょうだいの長男。小学5年生の頃、親戚の家でレコードプレーヤーから流れてきたビートルズ、エルビス・プレスリーなどの洋楽の洗礼を受けた。「自分では、ベンチャーズのレコードを買った」と懐かしむ。鵡川町(現むかわ町)の中学時代には同級生が持っていたエレキギターを見て、「自分も」との気持ちが抑えられなくなった。
1960年代のエレキギターは「不良のもの」と見なされ、通っていた学校も禁止だったが、農家の友人の納屋で借りて弾いて楽しんだ。中学3年の時、担任教諭から卒業生を送る予せん会で「演奏をしないか」と声が掛かった。「卒業生だから」と許されて、仲間とザ・タイガースやザ・テンプターズなど5曲を練習し、ギターとボーカルを担当。本番は「たくさん間違えた」と悔しさが残ったが、同級生から「すごい」と喜ばれたことも覚えている。
苫小牧東高校から立教大学に進学。卒業後、苫小牧信用金庫に就職した。仕事に追われ、ギターはいつしか手に取らなくなっていたが、音楽はずっと好きだった。50代半ばでサザンオールスターズの魅力に気づかされ、はまった。「同じ年代の桑田(佳祐)さんの気持ちの若さに、シンパシーを感じている」。ファンクラブに入り、ライブに何度も足を運んでいる。
「人前できちんと演奏したい」―。そんな気持ちが募り、退職を機にギター教室に通い始めた。市内のギター弾き語りサークル「VEGA」にも入り、出会ったギター講師の助言を受けながら、ワーナーミュージック・ジャパン傘下のエレックレコードの新人発掘プロジェクトに挑戦。「Susun(すーさん)」の名で道内第1号デビューをつかんだ。
「生きる力」の制作では第一線で活躍するプロに作詞・作曲を依頼でき、軽快なテンポに前向きなメッセージを乗せた1曲が完成。自分が事前に伝えた思いが曲に反映されているように感じ、「初めて人前で歌った時、思わず感極まった」と振り返る。
コロナ禍を経て昨年からVEGAとして地域のイベントに出演する機会に恵まれ、今年も仲間と演奏する予定だ。一方、配信用の2曲目の制作も進行中。「一生、音楽を楽しみたい」と声を弾ませる。(河村俊之)
◇◆ プロフィル ◇◆
鈴木康之(すずき・やすゆき) 1954年5月、空知管内由仁町生まれ。苫小牧市民会館で2013年に公開放送があった「NHKのど自慢」に応募し、出演はかなわなかったが、前日の予選会でサザンオールスターズの「栄光の男」を歌った。2年前から妻や息子夫婦らと「ほぼほぼすーさんオールスターズ」を結成し、年1度、仲間内で演奏を披露する。苫小牧市春日町在住。