トーベ・ヤンソンとムーミンキャラクターたちのイラスト(ライツ・アンド・ブランズ提供) 白くて丸い見た目と親しみやすいキャラクターで愛される、フィンランド生まれの「ムーミン」は今年、小説出版80周年を迎えた。人気は衰えを知らず、埼玉県飯能市に2019年開園したテーマパークも盛況だ。日本でライセンスを管理する会社の売り上げは昨年、過去最高を記録し、今年も順調に伸びている。
▽テーマパークも好調
1945年、トーベ・ヤンソンの小説「小さなトロールと大きな洪水」で始まったムーミンの物語。小説のほか、英国の夕刊紙に連載されたコミックや、日本でも放送されたアニメを通し、世界でファンを獲得した。01年にトーベが86歳で死去した後も、原作を基にアニメが制作されている。
飯能市の「ムーミンバレーパーク」は一足先に開業した隣の北欧ライフスタイル体験施設と合わせ、累計来園者数が今年1月に500万人を突破。運営会社によると、コロナ禍で減った客足が戻ってきており、純粋なファン以外の来訪も多い。
今年は80周年を記念した展覧会も始まる。「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」で、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで7月16日から約2カ月間催され、その後、各地を巡回する。
▽「一過性ではない」
日本でのムーミンに関するライセンスは主に「ライツ・アンド・ブランズ」(東京都港区)が管理する。伊東久美子社長によれば売り上げは右肩上がりだ。伊東さんは「一過性のブームではない」とした上で、作品が「今の時代にマッチしているのでは」と話す。
グッズ販売は好調で、公式ショップも増加。5月には東京・表参道にムーミンをコンセプトにした新たなカフェもオープンした。企業などのプロモーション案件も伸びている。人気を支えるのは、自然との共生や多様性の受容、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)の重視といった物語の持つ価値観だ。
製紙大手の王子ホールディングスは今年、森林の持つ価値を発信するプロジェクトでムーミンとコラボすると発表。ティッシュの商品デザインにも採用した。食品大手のカルビーも2年前から、ジャガイモのスナック菓子の宣伝や商品開発、食育で連携し、環境配慮などをアピールする。
自治体でも、北広島市が昨年、ライツ・アンド・ブランズ社と協定を結び、地域資源と自然体験を重視した「心を育む教育」や、地元銘菓のふるさと納税返礼品などにブランドを生かし、地域活性化に取り組む。
▽物語の哲学に触れて
トーベはフィンランドで人口の1割にも満たないスウェーデン語話者として育ち、同性のパートナーを持つなど、社会ではマイノリティーとして生きた。ムーミンの小説を書き始めたのは、母国が戦争に巻き込まれた1939年だった。
伊東さんは「将来への希望を持つことが厳しい状況で、頭の中にある、誰にも侵略されない理想を物語として描いた。今の時代が大切にしたい価値観が包摂されていて、哲学的であるとも言われている。皆さんに物語(そのもの)にも触れてもらえたらうれしい」と語った。
トーベ・ヤンソン=1988年3月、ヘルシンキ(AFP時事)