6日、宇宙ベンチャー企業(きぎょう)のアイスペースが開発した着陸機が月面への着陸に挑戦(ちょうせん)しました。日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))のSLIM(スリム)が昨年1月に着陸に成功していますが、民間企業が実現すれば日本初。しかし、予定時刻の直前に通信が途絶(とだ)えてしまいました。同社の最高経営責任者(CEO)の袴田(はかまだ)武史(たけし)さんは「月面に衝突(しょうとつ)した可能性が高い」と失敗を認める一方、「前に進める気持ちを持ち続けたい」と再挑戦に意欲を見せました。
▽2度目の挑戦
アイスペースの挑戦は、2023年4月に続き2回目。前回は着陸の直前に高度を誤認識(ごにんしき)した結果、燃料がなくなり、月面まで5キロの高さから墜落(ついらく)しました。
「回復力」を意味する「レジリエンス」と名付けられた今回の着陸機は、1月にアメリカで打ち上げられ、約4カ月半かけて月周回軌道(きどう)に到着(とうちゃく)。民間企業ならではの特徴(とくちょう)は、他の企業から預かった荷物を月に届けること。月面で水を酸素と水素に分解する装置や、食料として期待される「ミドリムシ」を培養(ばいよう)する装置のほか、小型探査車も搭載(とうさい)していました。
▽難しい月着陸
月のように一定の重力がある天体への着陸は、エンジンを逆噴射(ふんしゃ)してスピードを落としながら降りるという高度な制御(せいぎょ)が必要。地球のように大気がないため、パラシュートも使えません。
探査機は高度100キロを時速6000キロの猛(もう)スピードで周回しており、逆噴射で約1時間のうちに自転車程度の速さにまで落とす必要があります。しかも燃料の多くを使うため、やり直しのきかない一発勝負。アイスペースの技術責任者氏家亮(うじいえりょう)さんは「スキーのジャンプ台を自転車で駆(か)け下りつつ、ブレーキをかけて台の先端(せんたん)で止めるようなイメージ」と難しさを例えました。
▽月への競争、再び
月への探査は、アメリカとソビエト連邦(れんぽう)(現在のロシア)がにらみ合った冷戦時代には威信(いしん)を懸(か)けた競争がありました。1969年にアメリカが初めて人を月面に送りこみましたが、お金もかかるため、冷戦が終わって下火になりました。
しかし近年、中国やインドなどの新興国が月への進出を目指すように。地下に水があることや未来の発電エネルギーとなるヘリウム3という物質が豊富にあることも判明し、国や企業が注目し始めたのです。
前回に続き、着陸直前の失敗となりましたが、アイスペースはより大型の探査機を着陸させるミッションを27年に計画。袴田さんは「月への着陸は難しいが、重要なのは不可能ではないということ」と強調。失敗の原因を解明し、次に生かす決意を語りました。
月着陸失敗を受け、記者会見するアイスペース最高経営責任者(CEO)の袴田武史さん(中央)ら
=6日、東京都千代田区アイスペース社の月着陸機「レジリエンス」=2024年9月、茨城県つくば市の筑波宇宙センターアイスペース社の月着陸機「レジリエンス」の模型
=6日、東京都千代田区