野鳥の子育てシーズン ひなや幼鳥と出合ってもその場を離れて

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2024年6月21日
野鳥の子育てシーズン ひなや幼鳥と出合ってもその場を離れて

  気象庁では、今年の夏も全国的に気温が高くなる予想と発表され、札幌市ではすでに5月で夏日を記録。この先の気温が大変気になるところではありますが、すでに自然界では野鳥たちの「熱い」季節が始まっています。それは野鳥のライフサイクルの中で最も重要な子育ての季節です。

   そしてウトナイ湖野生鳥獣保護センターでは、この季節ならではの野鳥のひなや幼鳥に関係する相談も増えてきています。中でも多いのが、「飛べない鳥の子どもがいるのだけれど、どうしたらよいか」というものです。

   このような問い合わせの場合、基本的には、「そのままにしてあげてください」と伝えています。なぜならば、親鳥が近くにいる可能性が十分に高いからです。そのため、私たち人間が野鳥のひなや幼鳥に近づいたり、心配で何度も様子を見に行ったりしてしまうと、親鳥は危険を感じ、わが子のもとへ戻らなくなることも。たとえそれが人の善意であっても、親鳥が脅威に感じてしまえば、育児(育雛)放棄のきっかけになってしまうのです。

   特に小鳥では、一度にたくさんの卵を産み、ひなをかえします。その子どもたちが無事に大人になれる確率はごくわずか。それでも子孫を残すために親鳥は、この季節に2度、3度と連続して子育てを行うこともあります。生存競争が厳しい中、そして限られた期間に1羽でも多くの子が育つように懸命に子育てをする親鳥たち。もし、その最中にばったり出合ってしまったとしても、野鳥の親子の絆と生命力を信じ、その場を離れていただけたらと思います。

   また、近年のエナガ(スズメ目エナガ科亜種シマエナガ)の人気やコロナ禍での新たな時間の使い方としてカメラを趣味とする方が増えたこともあってか、「どこで野鳥の写真を撮れますか」「近くで野鳥を見られる場所はありますか」との問い合わせもよく頂きます。野鳥に興味を持っていただけるのは大変喜ばしいことなのですが、野鳥に近づき過ぎたり、長時間同じ場所にとどまったりすることも、野鳥たちの子育てのみならず、暮らしの妨げになってしまう可能性がありますので、ぜひ意識していただけたら幸いです。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

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