3月半ば。10年ぶりに会う札幌の友人を旭川駅に迎えに行き、一通り改札前で盛り上がり、歩いて居酒屋へ。夕方で人通りは増えてきたが、東京の比ではない。広い道路は、友人と並んで歩いても余裕で手を伸ばせるし、歩いていて窮屈じゃないな、と感じる。田舎道なわけでなく、歩行者天国の道路は整備され、きれい、かつ旭川の道路は碁盤の目のように真っすぐ。歩きながら思い切り空を見上げて空気を吸うことにも集中できる。おお、なんという開放感だ。これって大いに北海道の魅力の一つだと思う。
「北海道ってね」
同世代の友人が続ける。
「ヨーロッパに似てるよ、似てるからさ、ここ好きなんだよね」
彼女はオランダに住み、北海道へ移り住んだ。わたしは、なんか分かる気がするーと言い、続けた。
「ヨーロッパを感じる街なのに、なんと、ホッケを食べられます!」
最高だね、とわたしたちは居酒屋へと急いだ。
今は便利な時代だ。東京にいながら、旭川の人気店をスマホで調べられて予約までできるのだから。人気の居酒屋は、ひと月前から予約した。北の幸が食べられると、わたしは時折スマホで店舗情報を見ながらワクワクしていたのだ。
歩くこと10分。のれんをくぐると、いらっしゃいませー!と元気な声で店中が迎えてくれた。店内中央に大きな厨房(ちゅうぼう)、周りにカウンター席。通路を挟んで幾つかのテーブル席があった。開店したばかりだったが、数人のお客さんがいた。わたしたちは奥のカウンター席に通され、ビールを頼んだ。
「さやかさんの好きなもの頼んどいて」と彼女がお手洗いに立ち、わたしは早速お品書きを手に取った。あまりにもたくさんのメニューに、いやあ、これは、どれもこれも、頼み過ぎ注意、と独り言。つい、みんなは何を食べてるのかな?とキョロキョロする良くない癖。
察知能力の高い、お隣の同世代のお二方が「ししゃも!ししゃも!」と教えてくれた。もはや、テレパシー。「分かりました!」と伝えると「じゃがバタ塩辛も!」「分かりました!」「刺し盛り!」「刺し盛り、はい、3点盛り!」「5点!」「5点盛り!」
気付くと隣席の女性が全メニューを決めていた。
ありがとうございます、とお礼を伝え、お手洗いから帰った友人を待ち、一応選んだメニューを伝え了解を得て、すいませーん、と大声で厨房に声を掛けた。
そして数分後、隣席と全く同じメニューが、机に並んだ。わたしは友人に気付かれないように隣席に目配せし、ほほ笑み合った。
(続く)
(タレント)