初夏の薫り

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  • 2024年5月28日
初夏の薫り

  雲が濃く、低く広がり始めて、生暖かい風の後で、冷たい風がどこからともなく吹いてくる。詩人の吉野弘さんの作品に「風が吹くと」がある。こんな詩だ。〈風が吹くと おじいさま お池の水にシワがたくさん 出来るのね…〉、〈風がやむと おじいさま お池の水の シワがきれいに 消えるのね…〉。人生を重ね合わせているようで、好きな作品だ。この季節に時々、思い出す。

   マンションのベランダから手が届きそうなオオバボダイジュの緑が日増しに濃くなっている。日も長くなって、夜明けが早い。少年の頃から、雨が降る直前の、あの水の気配を含んだ独特の匂い、空気感が好きだった。多分、野球部にいたせいで、雨が降ると練習を休めると思っていたからかもしれない。初夏が行く。

   札幌で暮らして楽しみにしている一つが、大通公園で繰り広げられる四季折々の大きなイベントがある。一昨日は札幌市の木「ライラック」をシンボルとするまつりが閉幕した。最終日に会場を歩くと、すごい人出だった。新型コロナウイルスが5類に移行して丸1年が過ぎ、昨年以上に人が増えたような気がする。

   来週からはYOSAKOIも開幕する。国内外から255チームが参加予定だ。道都に初夏の薫りを振りまく。 (広)

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