ウトナイ湖野生鳥獣保護センターの救護室には、現在14羽の終生飼養の傷病鳥がいます。自動車や建物に衝突するなど、人為的な要因でけがをし保護されたものの、後遺症などにより自然復帰がかなわず、生涯にわたり飼養を余儀なくされた鳥たちです。
この中で最も飼養歴が長いのが、2010年に保護されたフクロウ(フクロウ目フクロウ科)です。建物に衝突した疑いで保護されました。左の翼の骨が折れ、直ちに整復手術が行われましたが、飛翔力が完全に回復することはありませんでした。特にフクロウのような猛禽(もうきん)類は、自然界では生きた獲物を捕まえるため、飛翔の際にわずかでもバランスが乱れれば獲物を追うことさえままなりません。それは、自然界では生きていけないことを意味するのです。
この他にも、プロペラ機に衝突し右翼を失ったハヤブサ(ハヤブサ目ハヤブサ科)、交通事故で眼球を損傷したアオバト(ハト目ハト科)、建物に衝突し翼に重傷を負ったオオコノハズク(フクロウ目フクロウ科)などの終生飼養の個体がいます。普段は救護室で過ごしていますが、出前授業や行事などで、自然保護の大切さを伝えるために活躍をしてもらってもいます。
そんな救護室に昨秋、新たな終生飼養の個体が加わりました。それは、身近な環境に生息する野鳥、ヒヨドリ(スズメ目ヒヨドリ科)でした。交通事故に遭ったのか、道路で飛べずにいたところを保護されました。搬入時にはすでに右の翼の先端を欠損しており、もう飛ぶことはできないのは一目瞭然でした。
幸いにして患部から感染症を引き起こすこともなく、間もなく容体も安定したのですが、これほどの重傷であったにもかかわらず、ヒヨドリは翼の一部がないことをまったく意識していないかのように日々を過ごしています。隙があればすぐに飛んで逃げようとしたり、部屋中に響き渡る大声で鳴いてみたり。小さな体で物おじすることもないその勇ましい姿には驚くばかりです。それまで厳しい自然界で生き抜いてきた、たくましさの表れなのかもしれません。
新たにヒヨドリを迎え、14羽の傷病鳥を終生飼養している救護室。この一年もこの鳥たちと共に、人と野生鳥獣の共生を目指し、歩んでいきたいと思います。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)