本展では、新たな可能性に挑戦する近代の工芸作品も見どころです。近代の工芸家たちは、アール・ヌーボーなど海外の潮流に学ぶと共に、自然を観察し、これまでにない意匠が展開されています。特に大正や昭和時代には、それまで工芸を飾ることのなかった新しい花々が意匠に取り入れられることも特徴です。
板谷波山の《彩磁アマリリス文花瓶》で意匠に選ばれたアマリリスは、熱帯アメリカ原産で19世紀にヨーロッパでの園芸熱を背景に流行し、同時代の装飾の様式、アール・ヌーヴォーの意匠にも用いられました。日本には明治時代に初めてアマリリスの花がもたらされ、北原白秋などがアマリリスに官能的なイメージを寄せた短歌を詠みました。
本作の正面には、咲き誇るアマリリスが描かれていますが、花盛りを迎えた妖艶な大輪は、やがては散りゆく時を迎えます。しかしその背後では、つぼみが開花のときを待っており、一つの作品に生命の循環の暗示が見て取れるでしょう。
高井白陽(1890~1958年)の《梨子地華丸文蒔絵手箱》に描かれる花はツバキ、サクラ、ミズバショウ、ナデシコ、そしてハイビスカスです。どこか生々しく濃厚な印象を持つ花々ですが、黒い縁取りや花を浮かび上がらせる色とりどりの円形の大小のバランスによって、デザインとしてのまとまりが生まれています。
伝統の美と技を継承しつつ、20世紀的な美意識によって彩られた意匠、自然の美しさを礼賛しながら、芸術性を高めようとする芸術家たちの意志が作品から立ち現れています。
(苫小牧市美術博物館主任学芸員 立石絵梨子)