サングラスを掛けた鳥 アオジ

  • レンジャー通信, 特集
  • 2024年5月3日
アオジの雄
アオジの雄
春のウトナイ湖
春のウトナイ湖

  アオジという鳥をご存じでしょうか。黄色と黄緑色が鮮やかなスズメより少し大きい鳥で、ホオジロ科ホオジロ属に分類されています。関東以西の雪のない場所で越冬して、北海道へは春にやってきます。雄の多くは目の周りが黒くなっています。この黒がサングラスを掛けているように見えることから、私は「サングラスを掛けた鳥」と覚えています。ちなみにアオジの雌は目の周りが黒くなく、サングラスを掛けているようには見えません。そして全体的に雄より落ち着いた色をしています。

   さて、このサングラスを掛けた鳥アオジがこの春もウトナイ湖にやってきました。ウトナイ湖では観察路沿いの明るい林で見ることができます。普段は木々の中で姿を隠して「チッ、チッ、チッ」と目立たない声で鳴き、草木の種子を食べています。

   しかし今は春の繁殖期です。目立つ木の枝の上で「チョッピー、チョチョッピー」と朗らかにさえずっている雄を見掛けます。異性に求愛したり、縄張りを守ったりするためです。サングラスを掛けて「そこのお嬢さん、俺と一緒に愛を育まないかい? オー、ベイベー!」と誘い、「おい!ここは俺の縄張りだ。入るんじゃない!」と主張しているのです。きっと雌は「ちょっと元気がないわねぇ」とか「まあ、セクシーなさえずり!」なんて考えながら、雄の品定めをしているのでしょう。そしてライバルの雄は負けるわけにはいかないと意気込み、自らもさえずるのです。

   私はこの4月からウトナイ湖で働き始めた新人レンジャーなのですが、ウトナイ湖でアオジを見た時、この土地に安心感と親近感を覚えました。なぜなら以前の職場があった長野県の上高地という山岳景勝地でもたくさんのアオジを見ていたからです。特に岳沢湿原という美しい沢水の流れる場所では、春から初夏にかけて複数のアオジが競い合うようにさえずっていました。私は独りで北海道に渡ってきて、家族も友人もいない場所で新たな生活を立ち上げました。その過程で、以前から見知った野鳥が身近にいることは、大げさな表現かもしれませんが、心の支えになりました。「知らない場所」を「知っている野鳥がいる場所」に変えてくれたのです。

   これから「知っている野鳥がいる場所」が「ホームグラウンド」になるように、ウトナイ湖の自然をしっかり見詰めていきたいと思います。晴れの日も、風の日も、雪の日も、季節を問わず、この地のさまざまな表情に出合いたいと思います。私は本のページをめくるように、はっきりと季節が巡っていくウトナイ湖の自然が好きです。ある日、パタンと冬のページがめくられ、春のページになっています。これからウトナイ湖という本のページを何枚読むことができるでしょうか。楽しみです。

  (日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ・松永新レンジャー)

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