春の千歳川はとても面白い。まだ餌が少ないため、大型のブラウントラウトやアメマスはサーフェイスを流下するサケの稚魚を追い掛け回して捕食する。水面から背びれを出して群れに襲い掛かるシーンはとてもエキサイティングで一度見たら忘れられない。それに魅了された多くの釣り人が、雪深い頃から千歳川にやってくる。
記者の知人であるKさんもそんな釣り人の一人だ。70台後半という年齢ではあるが、そのバイタリティーは若い人に負けない。天気が良い日はいつも早朝から千歳川に立ち、フライフィッシングを楽しんでいる。
25日午前5時30分、寒い朝だったので防寒着を着込んだKさんはいつものポイントに立っていた。すぐ近くに家があり、ウェーダーを履くのも面倒なため、いつも長靴で徒歩というスタイルだ。すでに何回かこのポイントでボイルを狙っているが、タイミングが悪く魚はまだ釣っていない。
手にしているタックルは9フィート#6ロッド。フローティングラインに3Xリーダーをつなぎ#8サケ稚魚パターンのフライを直結していた。
岸辺の流れが緩い所に、小さなサケ稚魚が群れをなして休んでいるのが見えた。辺りを見回しても他に釣り人はいない。この時間帯によくボイルが起こることを知っているKさんは、場を荒らさないように様子を見ることにした。
だが、しばらく待っても何もない。仕方がないので釣りをしながらボイル待ちをしようと、さおを振り始めて2投目だった。フライを打ち込んで大きくスイングをかけながら流れを横切らせた瞬間、ガツンという衝撃がロッドを襲った。
慌ててロッドを立てようとしたが、速い流れに乗って下流へと走られて万事休す。長靴しか履いていないので、川の中を魚と一緒に下ることはできない。意を決してドラグを締め、ジリジリとリールを巻き始めた。
リーダーは直結しているので簡単には切れないだろうと、さおの弾力を利用しながらゴリゴリとリールを巻いた。何とか切れずに手元まで引き寄せ、ネットを水中に入れてランディング。釣れたのは47センチのブラウンだった。50センチを少し切ったが、今シーズン初となる魚に大満足のKさんだった。(大中𠮷隆)