木を抜いた 加藤(かとう)千昇(ちしょう)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年10月19日

  厚真町で開かれた「森のひろば」というイベントに参加した。馬そりやロープを使ったツリーブランコ、打楽器のフリーセッション。開けた森のあちこちでユニークな遊びが展開され、訪れた子どもたちが楽しそうに駆け回る。その片隅で、穴掘りはすでに始まっていた。初めは子どもが2人で掘っていた。面白そうだと彼らに近寄ると「木を抜こう」と僕もシャベルを渡された。

   土を高く放り投げるのには意外と力がいる。いつの間にかどこかへ行った子どもたちに代わり、今度は父親たちがシャベルを持つ。初めは小さく見えた切り株も、想像以上に根は深い。大人3人でせっせと穴を掘り続ける。穴が深くなるにつれ、不思議とのめり込んでしまう面白さがある。数時間かけて切り株の周りを一通り掘り起こした後、切り株にロープを掛けて大人数人で引っ張る。うんとこしょ、どっこいしょ。それでも切り株は抜けません。

   ここでヒーロー登場。馬搬(ばはん)林業で活躍している馬の「カップ」の力を借りることに。手綱を握った方の掛け声とともに、カップがぐんっと大きく前に進む。先ほどはびくともしなかった切り株が、すぽんと抜けて宙を舞う。「おおきな”きり”かぶ」も最後は動物の力を借りるのだ。

   子ども向けだと思っていたイベントの中で、図らずも巻き込まれ夢中になって穴を掘るうちに、「遊び」の本質を思い出した気がした。それ自体が目的となるような遊びの中に生まれる表情や心地よい疲労感は、能力や評価と懸け離れたところにある。本気の遊びとは、純粋な生きる力そのものだ。生まれて初めて木を抜いた話。

  (厚真町地域おこし協力隊)

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