「被災地のありのままの姿を通して、一人でも自分事として考えてもらえるように伝えたい」―。胆振東部地震の記憶や教訓を語り継ぐ「ガイド」を務める厚真高校1年の蹴揚葉月さん(16)=厚真町上厚真=は真剣なまなざしで語る。
地震で37人が犠牲となった同町では今年度から、町観光協会が町の公営塾「よりみち学舎」と協力し、高校生ガイドの育成に力を入れている。蹴揚さん、同高2年の加藤迅さん(17)=苫小牧市大成町=、同1年の木村璃空さん(16)=同市拓勇西町=の3人がガイドに就いた。
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2018年9月6日未明に発生した地震の記憶は彼らに生々しく残る。蹴揚さんは発災直後、生活が激変した。市街地につながる上厚真大橋が2週間通行止めとなり、近所のスーパーに物資が入らず、避難所の炊き出しに頼る日々。「橋一本で生活が変わるとは」と実感した。
加藤さんは市営住宅大成町団地9階の自宅で寝ていたところ地震に遭い「体験した激しい揺れを思い出し、小さな地震でも目が覚めるようになった」と話す。木村さんも「停電で泣いていた弟たちと遊んだり、冷たいご飯を食べたりして過ごした」などと鮮明に振り返る。
被災地の厚真高校に進学した3人は、地震で尊い命が犠牲になった吉野地区などを見学し、地震について考える機会が増えた。被災地の案内役を担ってきた同協会の原祐二事務局長(53)と出会い、3人は地震やガイドに関心を深めて活動することを決めた。
今年6月から原事務局長に同行し、ガイド活動の準備を始めた。原さんが人前で流ちょうに話す姿に、「これを目指すのか」(加藤さん)と不安に駆られることもあった。3人は8月に東日本大震災の被災地、宮城県気仙沼市や石巻市を訪れた。
地元の語り部から「語り部にならなくてもいいから、自分の言葉で伝えたいことを話すことが大切」とのアドバイスを受け、加藤さんは「『自分の経験を話しても大丈夫かな』と感じたこともあったので、『話していいんだ』と肩の力が抜けた」と感謝する。
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3人は9日に「ガイドデビュー」を果たした。札幌市から訪れた高校生に自身の体験談を伝え、蹴揚さんは「被害の大きさや被害に遭った人の思いは、実際に経験した人にしか伝えられない」と意義をかみしめる。
木村さんも「当時の記憶は薄れていくが、状況を伝えて自然災害への教訓にしてほしい」と力を込め、加藤さんも「つらさや自然災害の恐ろしさを話すことで防災に役立てば」と願う。
3人の活動を支える原事務局長は「防災教育で厚真に訪れる中高生は多く、年齢が近い人が話すことでより伝わると思う。当時の小学生が感じた気持ちは、大人とは違う視点で、私自身も考えさせられた」と目を細める。震災の記憶を風化させないためにも高校生ガイドが奮闘する。