サバやアジといった赤身魚やその加工品などで起きる、「ヒスタミン食中毒」を知っているだろうか。温度管理が不適切だった場合などに、魚に付着している細菌が化学物質ヒスタミンを作り出すことが原因となる。
ヒスタミンはいったん作られると加熱調理では分解されないため、藤井建夫・東京家政大客員教授(食品微生物学)は「『加熱するから大丈夫』ではありません」と注意を呼び掛けている。
ヒスタミン食中毒は1950年代に多発していた。冷蔵技術が向上して近年は減少したものの、厚生労働省の統計では2022年までの5年間に約50件が報告されており、患者数は約1000人に上る。
国の食品安全委員会が科学的知見をまとめた「ファクトシート」などによると、魚肉に含まれるアミノ酸の一種ヒスチジンは、魚が死ぬと、魚に付着している細菌の作用でヒスタミンに変わっていく。赤身魚でヒスタミン食中毒が起きやすいのは、ヒスチジンの含有量が白身魚よりはるかに多いためだ。
食品を通じて摂取したヒスタミンの量が多いと、数分~30分ほどで、顔が赤くなる、頭痛、じんましん、発熱などの症状が表れる。ただし程度は比較的軽く、通常は約6~10時間で回復。抗ヒスタミン薬を服用すればすぐに治る。
アレルギーのある人が原因となる物質を取り込んだときも人の体内でヒスタミンが作られるため似た症状が出るが、アレルギー専門医で杢保小児科医院(香川県丸亀市)の平場一美院長は「ヒスタミン食中毒とアレルギーは別の疾患です」と話す。いずれにせよ違和感があれば食べるのをやめ、かゆくなったり赤くなったりした所は洗って冷やした上で、受診する。
ヒスタミンを作り出す細菌には多くの種類があり、藤井客員教授は「ほとんどの魚に付着しています」と話す。一部の細菌は低温でも増殖することにも注意が必要だ。
食中毒を防ぐには、魚に付いた細菌を増やさず、活動させないこと。流通段階での管理を徹底し、家庭では魚を常温で放置しない、冷蔵庫に入れた場合でも短期間で食べ切ることが大事だ。
食品にヒスタミンが多く含まれていると、口にしたときにぴりぴりした刺激を感じることがあるが、見た目や臭いは変わらず、気付かず食べてしまう恐れもある。魚に干物程度の塩分を加えてあったり、冷凍しておいたりしても、問題の細菌は死なないことも覚えておきたい。