縄文と現代をつなぐ美術と考古(1)龍虎と共に描かれた土偶

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2023年8月16日
立石大河亞《瓢箪と龍虎》1992年 ANOMALY蔵

  苫小牧市美術博物館は9月3日まで、特別展「縄文と現代~共鳴する美のかたち」を開いている。開館10周年や同市と青森県八戸市が結んだ交流連携協定「はちとまネットワーク」5周年を記念した企画で、絵画から土器まで200点以上を展示。美術、考古の各担当学芸員が4回にわたって解説する。

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   巨大な月や惑星、星雲、富士山を背景に、不可思議な世界が繰り広げられている。左方を占める波間には縄文時代の土偶たち、右方には渦巻く大気を従える龍、そして中央上部には月夜に浮かぶ虎の姿が見受けられる。空洞化した姿を示すトラは、画面手前に置かれた瓢箪(ヒョウタン)のつるがらせんのひもへと変容し、形を成していることに気が付く。また、電子基盤に見立てられた金雲は、本作が時空を超越した観念的な図像であることを示唆している。

   作者の立石大河亞(本名・立石紘一、1941~98年)は、同時代の人物や事物などを描き、和製ポップ・アートの先駆者として知られる美術家だ。画中には生涯にわたり油彩画、漫画、陶芸など表現の領域を横断しながら制作活動を続けた立石自身の過去作も引用されており、いわば名刺代わりの作品ともいえよう。

   本作の題名の一部となる「龍虎」は、古代中国を起源とする画題であり、日本では室町時代の武将たちが権威を誇示すべく絵師に描かせ、江戸時代に定着したという。そうした権威主義的な画題にあえて土偶を描き込むことは、戦後、「縄文」の中に根源的な美を見いだし、日本の美術史の一幕に書き加えた岡本太郎の精神にも通ずるようだ。

   本展では、本作と同じ空間において、岡本の油彩画をはじめ、立石の手による岡本をモデルとする陶彫、そして、写真人形劇絵本『じょうもんくんとたまご』(福音館書店、94年)のモデルとなった焼き物なども展示。見応えある空間となっている。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)

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