(上)自然へ抱く畏敬の念-遠藤ミマン

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2023年5月29日
遠藤ミマン《焼野》1947年、60.6×72.8センチ、苫小牧市美術博物館蔵

  苫小牧市美術博物館は6月25日まで、「美術所蔵名品選 風景画×静物画編」の企画展を開いている。四季折々の自然や身近な果物、調度品を描いた油彩画、木版画など99点展示。遠藤ミマン、鹿毛正三、渡辺貞一の作品を担当学芸員が3回にわたって解説する。

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   道央圏南部に広がる「勇払原野」は、郷土ゆかりの画家たちによって繰り返し描かれてきた。苫小牧を代表する画家・遠藤ミマン(1913~2004)も原野に魅了された一人であり、野火、馬、汽車、三角点など、郷愁を誘う風物を題材として取り入れつつ、緊密な構図と豊かな色彩によって自らの心象を織り交ぜながら描き続けた。

   野火という原野の持つ野性的な一面を捉えた本作は、遠藤が少年時代に遭遇した自然発火の記憶に基づくものであり、画業の原点として位置付けられる。画中に立ち込める煙や地平線から眼前に続く河川のほとりまでくすぶる炎からは、自然の底知れないエネルギーないし、それに対する畏敬の念が伝わってくるようだ。

   一方、煙をたなびかせながら地平線を横切る汽車のシルエットは、往時の原野の姿をしのばせると同時に、時の経過が暗示されており、画中に叙情的な風情を与える。本作から、そこはかとなく感じ取れる牧歌的な印象は、画家が雄大な原野に抱き続けた畏怖と敬虔(けいけん)、そして郷愁の念に起因するものといえよう。

   現在開催中の企画展では、本作も含め遠藤作品を9点紹介している。同じく野火を題材に原野の野性的な側面を描いた作品のほか、構図の成り立ちを示す白い線の跡が生々しい習作も展示。模写作品の表面に残されたチョークの痕跡と、それに付随した資料からは、画家の構図に対する探求心とともに、後進の育成に対する熱量が伝わってくる。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)

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   午前9時半~午後5時(最終入場は同4時半)。観覧料は一般300円、高校・大学生200円、中学生以下無料。月曜休館。

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