野鳥の繁殖期到来 カラスの子育てもそっと見守って

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2023年5月19日
ハシブトガラス(中村眞樹子さん提供)

  新緑が深まり、春から夏の装いに変わりつつある今日この頃。多くの野鳥が子育ての時期を迎え、どこからか、にぎやかなひなの声が聞こえたり、親鳥が巣立ちしたばかりの子を連れて飛ぶ姿が見られたりするようになります。ほほ笑ましい野鳥の子育て風景がある一方で、あまり歓迎されない野鳥もいます。それはカラスの子育てです。

   カラスとは、カラス科カラス属の総称で、私たちの身近には「ハシブトガラス」(以下、ハシブト)と「ハシボソガラス」(以下、ハシボソ)の2種類のカラスがいます。両者の名にある「ハシ」とはくちばしを意味し、くちばしが太く、上くちばしが湾曲しているのがハシブト、全体的にほっそりしたくちばしをしているのがハシボソです。ハシブトはハシボソより一回り大きく、おでこが出っ張っています。ハシボソは、ハシブトより一回り小さく、おでこは出っ張ってはいません。

   ぱっと見は分かりづらいかもしれませんが、歩行のしぐさや鳴き声などでも識別が可能です。この2種とも身近に生息する野鳥を代表していますが、全身が黒いせいでしょうか、大きな体だからでしょうか。昔から不吉を連想されてきた印象だからでしょうか。カラスに対してマイナスの感情を持つ方が非常に多く、特にこの子育ての時期は人々を襲う鳥として、時折メディア等でも取り上げられるほどです。

   ウトナイ湖野生鳥獣保護センターのセミナーで、これまで講師としてたびたびお招きしている、札幌カラス研究会代表理事の中村眞樹子さんにお話を伺ったことがあります。

   実は、人を襲う可能性があるのはハシブトで、ハシボソは人を襲うことはほとんどないということ。また、すべてのハシブトに攻撃性があるわけではなく、巣立ち前後の2週間が、親鳥が特に神経質になるため、この間に人々が駆け寄ったり、立ち止まって見上げたり、場合によっては怒鳴ったりなどしてしまうと、当然のことながら親鳥にとってはすべてが脅威になり、子を守るがゆえに攻撃性が増してしまうこと。ただ、親鳥も突然襲うのではなく、襲うという最終手段の前には、たいてい威嚇鳴きや低空飛行、枝を突いて落とすなどサインを出しているのですが、私たちがそれに気付かないでしまっていること。

   残念ではありますが、人々を襲うきっかけは、私たちがつくり出してしまっていることが多いのです。自然界で生き抜く大変さは、カラスもほかの野鳥も変わりなく、また懸命な子育ての姿も、私たち人間とも何ら変わりはないのです。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

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