苫小牧市の樽前山神社で長く奉職し、地域の結婚式や事業所の地鎮祭などで人々の幸せや安全を祈念してきた。双葉町町内会の会長として地域活動にも尽力する。人と人とのつながりが希薄になる中、地域住民が互いに支え合うことを大事に考え、次世代を担う若者の育成にも携わる。
太平洋戦争終戦後の1945年10月、青森県弘前市で生まれた。2歳の時、父親が死去し、母親の実家がある礼文島に移り、その後、札幌市内に転居した。中学を卒業後、縁あって苫小牧市矢代町にあった樽前山神社で結婚式の後片付けや祭りの準備を手伝いながら、苫小牧東高定時制に通学。途中、苫小牧西高(全日制)に転入し、同校を卒業した。
将来の進路を考えた時、神社の関係者から「神主にならないか」と誘われ、65年から67年まで、東京の国学院大学神道研修部に進学した。昼間に東京大神宮で勤務し、夜間は学校へ通いながら知識を身に付けた。
当時、日本は高度経済成長期の真っただ中で、赤坂プリンスホテルなどでは1日10組の結婚式の手伝いに入ることも多かった。67年に苫小牧に戻り、樽前山神社で神職となった後も、結婚式や企業の地鎮祭など神事で市内を駆け回り、毎年樽前山の山開きや7月の例大祭に臨み、地域の発展を願ってきた。
同神社で権禰宜(ごんねぎ)や禰宜(ねぎ)を歴任し、60歳で定年退職。その後、相談役など嘱託として70歳まで勤務を続けた。「先々代、先代、現在の宮司には大変お世話になった。多くの人と出会い、最高だった」と感謝する。
地域では2013年から、双葉町町内会の会長を務めている。「前会長が『向こう三軒両隣』との指針を立てたこともあり、町内をきれいにする人が多い。みんなに支えられている」
町内会の課題に住民の加入率の低さを挙げる。5年ほど前に町内会で加入促進班をつくり、チラシを配布して加入を呼び掛けている。無料通信アプリLINE(ライン)で役員が連絡をし合うなど、ICT(情報通信技術)を活用して時代の変化にも対応している。
町内では、1人で動くことが困難な人がいるエリアを地域住民が日ごろから気に掛け、災害時などに動いてもらう体制づくりを進めている。「地域はお互いの支え合いが非常に大事」との考えから、普段のあいさつなどできることを続けながら、交流の深まりを望む。
次世代を担う若者の育成にも力を入れる。樽前山神社スカウト団を母体とし、1977年に発足したボーイスカウト苫小牧第2団で、5年ほど前から指導者として子どもたちに社会で求められる生きる力や心構えを教えている。「めげないこと、諦めないで継続する大切さを教えている。活動を通じて楽しさを味わってほしい」と願う。
(室谷実)
◇◆ プロフィル ◇◆
猪股 瑞彦(いのまた・みずひこ)1945(昭和20)年10月23日、青森県弘前市で生まれる。61年に苫小牧市に移り、東京の国学院大学神道研修部を卒業後、67年から樽前山神社で神職を務めた。趣味はパークゴルフ。苫小牧市双葉町在住。