白老町の白老楽しく・やさしいアイヌ語教室が「金成(かんなり)マツ筆録・滝本イチ口述ウエペケレ(昔話)7話の研究」を刊行した。登別市出身の口承文芸伝承者・金成マツ(1875―1961年)が、1932~35年にアイヌ語口述を聞き取ってローマ字と片仮名で筆録した昔話の原文を、解読、翻訳している。
金成マツは、アイヌ民族の物語を初めて文字化した「アイヌ神謡集」の著者・知里幸恵(1903―22年)と、アイヌ語学者として知られる知里真志保(1909―61年)の叔母。ユカラ(英雄叙事詩)などアイヌ語の口承文芸をローマ字筆記体で書き残す活動に取り組み、59年に「アイヌ叙事詩ユーカラ集」を出した。
本編に収録された昔話7話は、マツ57歳の32年に真志保に向けて書いたもので、どれもアイヌ民族の貴重な財産という。
同教室は、未訳のままとなっていた肉筆原文を札幌市の道立図書館が所蔵するマイクロフィルムからコピーで取り寄せ、代表の大須賀るえ子さん(82)らメンバー9人で昨年4月から、日本語訳にする作業を進めてきた。解読と翻訳は今年2月末までに終え、アイヌ政策推進交付金を活用して製本した。
アイヌ語のローマ字表記と片仮名表記、日本語訳を載せた昔話は、誰も見ていないと思ったとしても神や人をあざむく振る舞いをしてはいけない―という訓話「ウラシベッの婦人の陰部にシイタケがくっ付く」をはじめ、「独り暮らしの少年」「我が母シノッチャとオイナばかりで我を育てる」「イクレスイェ旦那妬(ねた)まれる」「喉長」など。
大須賀さんはマツの筆録について「他地域の似た話の中でも情景描写が素晴らしく、文学的才能が豊かで、口伝を文学の域にまで高めている」と語り、「語り部やマツの労苦に報いるためにも今後も解読を続け、世に広めていきたい」と意気込んでいる。
B5判、328ページ。200部印刷し、道内外の博物館や学術研究機関、町内の小中高校や町立図書館などに寄贈した。同教室は2004年以降、口承文芸やアイヌ語方言などの研究成果をまとめた本の出版を続け、今回で通算18冊目となる。
5日からは、町コミュニティセンターに週1回ペースで集まり、新たな翻訳作業に入っている。今回はマツの親族とみられる女性、豊年ヤイコレカやニサシテク、フッチャンルの口述計5編をまとめる計画。