白老町の白老民族芸能保存会理事の飯島宏之さん(40)=町竹浦=は、町内の砂鉄と木炭を使い、昔ながらの製鉄法でアイヌ民族伝統の小刀(マキリ)を作ることに取り組んでいる。夏までに3本を製作する考えで、古代製鉄の伝承活動を続ける「室蘭・登別たたらの会」代表、石崎勝男さん(78)=登別市緑町=の協力を得て作業に力を注いでいる。
マキリは、アイヌ民族が宗教儀礼に用いる木製祭具イナウを作る時などに使う神聖な祭具。
飯島さんは「地元の素材を使い、自分で鍛錬して作ったもので祈りをささげたい」との思いを秘めていた。町虎杖浜地区の砂浜では砂鉄が採れることから、この砂鉄を町内産の木材で作った木炭を燃やした熱で製鉄し、マキリを作る構想を抱いていた。
これを知人のドローンカメラマン瀧谷栄さん(56)=白老町竹浦=が知り、5年ほど付き合いのある石崎さんを昨年12月上旬に紹介。飯島さんの思いに強く胸を打たれた石崎さんが、協力を買って出た。
石崎さんの手掛けるたたら製鉄は、原料の砂鉄を木炭を燃やして製錬し、鉄や鋼(はがね)にする1000年以上前からの伝統的製鉄法。粘土製の炉で木炭を燃やし、砂鉄から鉄塊である鉧(けら)を作り、これを熱してはたたき、折り重ねては鍛えることを繰り返し、1本の刀に仕上げていく。
飯島さんは年明けから石崎さんの自宅にある工房に定期的に通うようになり、製鉄技術を磨いている。春が近づく工房には、鉄槌を振り下ろすたびに火の粉が舞う緊張感に包まれながらも、鉄を打つキーンという高い音と男たちの朗らかな掛け声が響く。
飯島さんは「お金で買ったマキリでカムイ(神)にささげるイナウを削りたくない」と胸の内を語る。鉄の打ち方やタイミングを指導する石崎さんは「白老産の木炭は火力が安定している。『地元の素材を使い、伝統製法で作りたい』という気持ちがうれしい。応援してやりたい」と目を細める。
2人をつなげた瀧谷さんは、鉄を打つ飯島さんの姿を見守りながら「石崎さんが『一緒にやろう』と言ってくれてうれしかった。工房で学んだことが白老での技術継承にもつながれば」と話す。
マキリは完成後、仙台藩白老元陣屋資料館で8月11日に開かれるイベント「陣屋の日」でお披露目される予定。