支笏湖南岸、モラップ―美笛間の最初の自動車道は、1960(昭和35)年に完成した札幌営林局の林道「湖畔道路」です。それ以前は荷馬車が通れるほどの道があったとされていますが、詳細は分かっていません。美笛鉱山の鉱石や住民の生活物資、木材などはいずれも湖上輸送でした。湖畔道路は65年に主要道道洞爺湖支笏湖線、70年4月に国道276号に昇格しています。
同線には観光、産業道路として大きな期待が寄せられましたが、最大のネックは美笛―支寒内間の砥石山周辺約1キロ区間でした。急峻(きゅうしゅん)な砥石沢をはじめ複数の沢からの雪崩や落石が頻繁に発生し、その都度通行止めとなり、その整備は急務とされましたが、対策は遅々として進みませんでした。
大きな転機となったのは、70年3月に起きた雪崩遭難事故でした。雪崩で動きが取れなくなった同僚の救助に向かった営林署職員が、新たな雪崩に流され行方不明になったのです。このため管理する北海道開発局ではトンネル建設を決め、完成までの応急対策として防護柵を設置。さらに雪崩の発生する2~4月には常時パトロールを行うとともに監視小屋を設けて監視員2人を配置しました。
工事は72年5月に着工し、74年11月に完成しました。総延長995メートル、中間部約40メートルに切れ順巻きという「フード」がかぶせられています。完成を報じる千歳民報には、ちょっと不思議な言い回しで「サイクリングロードのための片側歩道部分を2メートル幅とってある」と記されています。トンネルの完成で、雪崩などの気象災害による美笛地区の孤立が解消された上、支笏湖と洞爺湖を結ぶ観光・産業道路の整備が一層進むことになりました。
(支笏湖ビジターセンター自然解説員 先田次雄)