谷内六郎の描く作品のほとんどは、子どもが主人公です。谷内は、病床で過ごすことの多かった子ども時代の記憶、感覚が描く絵の素(もと)になっているといい、心の中で幻燈に映すようにして絵にしてきたと語っています。(谷内六郎「私の絵の世界」『幼ごころの歌』1969年、新潮社、115ページ)
また、62(昭和37)年に長女、その4年後に長男が誕生し、子どもたちとの生活も作品の大切な「素」となっていたことでしょう。家で仕事をしていた谷内は、常に子どもたちと一緒におり、居間で子どもを膝の上に乗せたまま、絵を描くこともあったそうです。
子どもたちの考え出す遊びやイメージの世界は、大人にとっては思いも寄らないものとなります。大人から見れば、ほほ笑ましく思えることもありますが、子どもたちはとても真剣に、時に恐ろしい気持ちで、時に愉快に、みずみずしい感覚で世界と関わっているのです。
谷内六郎の作品は、子どもの頃の記憶の中にある感覚的な一瞬の錯覚が、温かなタッチで具現化されたものと言えるでしょう。作品が伝える感覚は、現実から飛躍しながらも、それでいて誰の心にもリアルに感じられるものであり、どこか懐かしく、同時に新鮮な印象をもたらします。
(苫小牧市美術博物館学芸員 立石絵梨子)