(中庭展示・上) 不均衡構造に加わる外的要因

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2022年6月17日
川上りえ「Yet We Keep Seeking for a Balance」

  苫小牧市美術博物館の今年度の中庭展示は、石狩市在住の美術家川上りえさん(60)が手掛けた5方向に分岐するてんびん。ステンレス製のてんびんは幅最大約5メートル、重量100キロ超の大作だ。担当学芸員が来年3月まで展示される同作品のほか、川上さんの過去の作品について、独自の考察を交えながら3回にわたって解説する。

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   中心部に位置する円筒形のオブジェから5方向にアームが伸長し、それぞれの先端に円盤状のプレートがつるされている。その構造は見る者に「てんびん」をほうふつとさせるが、同時に「やじろべえ」のような仕組みを有している。二項対立を原則とするそれらと異なり、本作においては、力点が奇数に分散されているため、極めて不均衡な構造となっている。

   原題を和訳すると「それでもなお、われわれは均衡を求める」という意味の題名を持つ本作であるが、その造形性からは、空中を浮遊する回転式の遊具ないしドローンのような上昇のメカニズムを有した機械など、多義的な連想もできなくはない。本作があえて造形的な無駄を切り落とした最小限のフォルムしか持たず、解釈の余地を残していることがその理由として挙げられよう。

   本作を手掛けた川上りえは、主に鉄を素材としながら、人間の知覚を超えた現象に着目し、万物の本質についての考察を投影した作品を制作する。一方でその表現手法は鉄による彫刻に限定されないものであり、ときに鑑賞者を作品内へと招き入れる双方向的な作品も手掛けている。

   中庭という半屋外に設置された本作は、雨や風などの些細な外的要因が混在することで、各プレートに緩やかな動きや揺らぎの現象がもたらされる。その構造は、変遷を続ける万物の姿を象徴するかのようであり、同時に均衡を保ち続けようとする世界そのものの本質を示唆しているようにも映る。

   (苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)

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