野鳥の事故で最多の衝突事故 まずは経過観察を

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2022年6月17日
窓ガラスに衝突直後、あおむけにひっくり返っていたヤマガラ

  ウトナイ湖野生鳥獣保護センターに傷病鳥獣が運び込まれる原因として最も多い「衝突事故」。主に窓ガラスや建物の壁、自動車や電線などの人工物に衝突する事故で、当センターに搬入された傷病鳥獣のうち、その疑いも含めると全体の6割以上も占める原因です。

   衝突する経緯も実にさまざまで、猛禽(もうきん)類などの天敵に追われている最中の事故、繁殖期にオスとメスが一緒に飛び回っているうちに2羽同時に衝突した事故、道路に飛び出してしまった際に自動車に衝突した事故、夜間飛行中に障害物に気が付かずに衝突した事故などがありました。また、これからの時期は、今季生まれの幼鳥たちがまだ十分な飛翔力を持ち合わせていないこともあり、事故の増加が予想されます。皆さまの身近な場所でも、このような事故現場に遭遇することがあるかもしれません。

   事故に遭う鳥が大型の場合、飛ぶ速度も早く体も重いため、衝突時の衝撃も強く重傷化することがありますが、小鳥の場合、全身を打っていたとしても、意外にも短時間で回復するケースがあります。

   つい先日、私もヤマガラ(スズメ目シジュウカラ科)が窓ガラスに衝突した事故現場に遭遇しました。ヤマガラは、一過性の脳しんとうを起こしていたのか、あおむけにひっくり返ったまま動くことができません。しかし、頭部を強打し脳へのダメージが疑われるような神経症状や出血している様子もなく、触れずにしばらく観察していると、自らくるっと回り姿勢を元に戻すと、ふと我に返ったように動きだし、その後自然界へと羽ばたいて行ったのです。

   このように、小鳥の衝突事故では一時的に症状を起こしていることが多く、早ければ数分で、長くても3~4時間で自然回復します。そのため、もし飛べない野鳥に出合っても、明らかな外傷を認めない限り、まずはそのまま見守っていただけたらと思います。ただし、一つ注意点があります。この時、人が近づき過ぎたり、手を差し出してしまうと、野鳥がパニックを起こし、回復しきれていない状態で飛ぼうとすることで、二次的な事故を招いてしまうことも。まずは距離を保ちながら、彼らの自然治癒力を信じて経過観察いただけたらと思います。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

過去30日間の紙面が閲覧可能です。