「このことだったんだな」。直木賞作家の馳星周さんの新刊「黄金旅程」(集英社)を読みながら、3年前の夏を思い出していた。
この年、出身地の浦河町で約2カ月間滞在していた馳さんに、40分弱のインタビューができた。ちょうど執筆中の小説について、日高を舞台に競走馬の世界を描く構想を聞いていたので、それが完成したのだと分かった。
質問に答える馳さんは、ノワール小説の名手で写真のサングラス姿から抱く印象とは異なり、とても気さくな方だった。自作で繰り返し、東日本大震災を扱う理由を尋ねた。すると「あれだけ大変なことが起きたのに被災した人以外は風化するのが早い」と嘆き、作家の使命として忘れないため、書き続ける自負も明かしてくれた。
当然のように、胆振東部地震も書くと言っていた。確かに、そんな決意が伝わる新作だった。登場人物の誰もが挫折を経験しているようにも読めて、そうした人たちに向ける馳さんのまなざしに温かさを感じた。(河)