命を失ったオオセグロカモメ 釣り針・釣り糸被害後を絶たず

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2021年10月15日
舌の先が壊死し、くちばしの脇から飛び出ている状態

  ウトナイ湖野生鳥獣保護センターには毎年多くの傷病鳥獣が搬入されますが、その原因として最も多いのが、窓ガラスや壁、自動車などの人工物への衝突事故で、全体の6割を超えます。

   これに比べると全体の1割未満と保護件数としては多くはないものの大きな問題とすべき原因があります。

   それは「釣り針・釣り糸」による事故です。これは、海鳥が被害に遭うことが多い事故で、捨てられた釣り針が体に刺さったり、のみ込んでしまうことで針が食道や胃に刺さったり、釣り糸が体に絡みつくことで身動きできず衰弱したりと、時には命に関わるものです。釣り針・釣り糸のごみを捨てない落とさない、それだけの心掛けで防止できるにもかかわらず、残念ながらこの事故は後を絶ちません。

   つい先日も、1羽のオオセグロカモメ(チドリ目カモメ科)の幼鳥が搬入されました。海辺で釣り糸に絡まり動けずにいたとのことでしたが、初診にて、オオセグロカモメの顔に細長い黒い突起物を確認しました。よく見ると、舌の先端が黒く壊死(えし)し、これがくちばしの脇から飛び出ているものでした。

   舌にきつく釣り糸が絡みついたことが原因で、その先の舌の部分が黒く硬く、壊死していたのです。ただちに原因となっている糸を除去しましたが、さらに喉の奥の粘膜には、糸がついたままの釣り針も刺さっていました。こちらもすぐに除去しましたが、直径1センチほどの、かえしのついた釣り針。吐き戻したくても吐き出せず、かなり苦しい思いをしたに違いありません。

   舌が壊死するまでにきつく絡まった釣り糸と喉の奥に刺さった釣り針。この状態で口を閉じることもできず、どれだけの時間を過ごしてきたのでしょうか。処置が終わるも、オオセグロカモメの容体は悪く、数時間後には死んでしまいました。

   若くして命を落とさなくてはならなくなったオオセグロカモメの幼鳥。ただでさえ厳しい自然界の中で必死に生きる彼らの前に、私たちは決して立ちはだかってはいけないのです。

   後を絶たない釣り針・釣り糸による事故。改めてではありますが、釣りをする方は釣り針・釣り糸を落とさぬよう、そして釣りをする方もしない方も落ちている釣り針・釣り糸を見掛けたら、皆さま自身もけがをしないように拾っていただけたらと思います。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

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