昔、東京の映画館で見た映画。並木座だったか早稲田松竹だったか? およそ45年も前……。川谷拓三という俳優が出ていた。死んだけど。彼のことを前振りに書こうと思ってキーをたたいていたら、その頃に強烈な印象を受けた劇団の看板女優であった李礼仙さんがつい最近、亡くなったことを思い出してしまった。憧れのひとであった。共にご冥福を祈る……。
映画のタイトルは「仁義なき戦い」。その映画で川谷拓三は脇役、主演の文太とか欣也とか主役を引き立てる「やられ役」。「鉄砲玉」の川谷拓三は犬コロのように殺される下っ端を演じ、大部屋俳優から抜け出した……。
川谷拓三が「このクソ外道が!」と叫ぶシーンがよみがえってくる。この「外道」、仏教用語らしい。「内道」に対する「外道」。つまり、異教、異端。釣りの世界では狙った魚以外の魚が釣れたときに使う。
「ニジマス狙いでウグイが食った」「カレイでなくウグイが来た」とか……。狙った魚より「ランク」が低いときに「このクソ外道が!」とののしる。ウグイはニジマスやカレイよりもランクが低いというのが常識である。
この間出掛けた湖にもウグイはあきれるほどいて、産卵の真っ最中。グチャグチャの団子になって、岸辺を泡立てていた。「釣り味」の低いウグイは外道中の外道である。簡単に、というよりは釣れるほとんどがウグイという場合がある。生命力が強いのと適応力があるんだろう。でも、さっぱり「人気」がない。ここらの海でブッコミをやっているときでも釣れ、食べた人によると、小骨が多いらしい。ヌタがおいしいと聞いた記憶もあるが、試したことはない。
皮が硬くてアキアジ釣りの餌にいいんだ、と先輩から聞いた。ごみ扱いのウグイが高級魚だったらマス類、カレイ類は「外道」に落ちる。「ハッカク」なんて苫小牧市元町の浜に山と積んであった。今じゃ高級魚だ。温暖化が進んで生きものに激変が起きようとしている。外道もクソもない試練が待っているようだ。
(農民文学賞作家)