鳥たちの子育てシーズン本格化 知らんぷりの心掛け

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2021年5月21日
身近な野鳥、ハクセキレイ

  「チチッ、チチチッ」。ウトナイ湖野生鳥獣保護センターのバックヤードで、毎年春を迎えると聞こえるようになる小鳥の声。その声の主は、白と黒のコントラストがかわいらしいハクセキレイ(スズメ目セキレイ科)です。ハクセキレイは私たちの身近で暮らす野鳥の一つで、長い尾羽を上下に振り下ろしながら地面をせわしなく歩く姿を、皆さまもどこかで見かけたことがあるのではないでしょうか。そんな身近な野鳥のハクセキレイ。子育ての時期になると思わぬところで巣を作ることがあります。

   庭に立て掛けてあったモップのたもと、花壇の隅、置きっ放しの自転車の籠など実にさまざま。当センターでも、しばらく使っていなかったバケツの中にこっそりと巣を作っていたこともありました。このように人の生活空間を巧みに利用しながら暮らすハクセキレイですから、巣作りや抱卵時、ヒナに餌をあげているときなど、ばったり出合うことがあるかもしれません。ですが、そんな時はどうか「知らんぷり」をお願いいたします。

   なぜならば、私たちが意図していなくても、人の存在は親鳥たちに脅威を与えてしまうからです。想像してみてください。わずか体重が20~30グラムほどしかない小鳥たちにとって、その2000倍にも3000倍にもなる重さの人間が突然目の前に現れたら…。私たちが近づいたり、のぞき込んだり、ふとした何気ない行為でも、親鳥は危険を察し、育児(育雛)を放棄してしまうこともあります。残念ながら、親と離ればなれになった卵やヒナに、明るい未来はやって来ません。このような状況を回避するために私たちができること、それが「知らんぷり」なのです。

   一般的に小鳥の子育ては、抱卵から孵(ふ)化まで約2週間、孵化してから巣立ちまでがまた2週間。巣立ってからもしばらくは親子で過ごします。そのため、この1~2カ月間は、子育ての場に遭遇しても、知らぬ存ぜぬで距離を保っていただけたらと思います。野鳥たちの子育てシーズンが本格化する今、きっと皆さまのすぐ近くでも繰り広げられている尊い命の営みが、無事に穏やかに行われますようにと、一緒に願っていただけたら幸いです。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

過去30日間の紙面が閲覧可能です。