春といえば、卒業や入学、新生活など、何かと環境の変化の多い季節。わが家でも、長女が小学校へ入学、ついこの間まで赤ん坊のような気がしていた末っ子は早くも年少になりました。
野外では、夏鳥たちの到来が始まり、繁殖に向け、鳥たちのにぎやかで、かつ一生懸命なさえずりも聞こえるようになりました。そして、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターでも、この春はさまざまな変化を迎えました。
当センターの設置者である環境省により、脱炭素化に向けた改修工事が行われ、太陽光発電や蓄電池の導入、全館の照明のLED(発光ダイオード)化など、地球温暖化につながる温室効果ガスの排出を最大限に減らすための取り組みが始まりました。そして、傷病鳥獣の救護施設にも変化が―。
それは傷病鳥たちが飛翔(しょう)訓練などをする際に用いるリハビリケージの床が、新しく敷設されたことでした。このケージにはもともと、当センターが開設された当時から敷かれていた床があったのですが、一部劣化が進んでいたことから、ケージ内のすべての床を交換するという大掛かりな工事の運びとなったのです。
単に「床」と言っても、野生動物救護の現場において、リハビリケージをはじめ、傷病鳥たちを収容するスペースの足元の環境の重要度はかなり高く、その材質を間違えれば、足が引っ掛かることで爪が破折したり、捻挫のような事故につながったり、足裏にわずかな擦り傷を作るだけで重度の感染症をも引き起こすこともあり、リリースはおろか、命さえも危ぶむ事態になりかねません。そのため、足が直接触れる床や止まり木などへの適切な材質選びは、救護の現場では基本中の基本なのです。
今回、新たに導入した床の素材は、ゴム製のマット。ゴムチップを圧縮し固めており、若干の弾力性をも持ち合わせているため、猛禽(もうきん)類などの鋭い爪を持つ種も、デリケートな水かきを持つ水鳥にも適応しています。床一面には、縦100センチ×横200センチのゴム製のマットが約40枚、コーキング処置により隙間なく敷設され、さっそくハヤブサが飛翔トレーニングを始めました。
どのような怪我で運び込まれた傷病鳥獣であっても、そのけがの治療と並行して守らなければならない足元の環境。一見、自然復帰には縁はなさそうですが、足元を守ることは、リハビリの期間だけでなく、再び自然界で生き抜くための軸となる、重要な要素なのです。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)