恐るべし

  • 釣り
  • 2021年3月25日
Aファームの肉

  ▽431

   カオカオと鳴き声が高い空から降ってきた。三角の大編隊が北東の方角を目指している。去年の秋、同じようなルートを真反対の南西に進路を取り、海峡を越えて渡って行ったハクチョウ、ガンの群れだ。

   この季節、川ではサケの稚魚たちが旅立ちを迎えている。体長5センチほどの稚魚は岸に近い流れの緩やかな場所でユスリカを捕食しながら海を目指す。苦難の旅の始まりだ。アメマス、ニジマス、ブラウントラウトが凶暴な牙をむいて待ち構えている。悪賢い釣り師が川岸に立った。身じろぎもせずにいると、突然水面が割れて、大口を開けたアメが空中に身を躍らせる。彼は完全に狂っている。

   ごちそうが「団子」になって漂いつつ目の前を下っていく一瞬を逃がすまいと、彼らは牙を光らせているわけだ。そいつらをリーダーの先には稚魚を擬したフライを結んだ釣り師が狙っている。釣れる確率はうんと低い。あれこれと過去にふけるだけのインドア釣り師になる前に、まだ突っ張って現役を張る。去年の冬以来ロッドを握っていない。本チャンの前に肩慣らしをせずにはおられまい。と、キャス練のため白老川に繰り出した。

   数年前から車が川に近づけないようにチェーンが掛けられ、施錠されている。土木なんちゃら役所の仕業だ。初めてこの強硬策に出合った時、看板の番号に電話してブータラ文句を言った●【9083】。バット、最近は考えを改めた。そこら中、不法投棄が目を覆いたくなるほどのひどさだ。車で来て、川の中に信じられないようなブツをぶち込んでいく。川も港も、どこも。公共心のかけらも育っていないやからが辺りにごまんといる。

   川を守るためには不便を忍ばねばなるまい。帰り際、牛の絵が目に飛び込んだ。Aファミリーファームだ。本紙で紹介されていた。中に入って驚いた。新調した排気ファンが強烈だ。匂いがしない。聞くと、最上級のさらに上の肉を出したそうだ。地道な努力が花開いた。食った印象。恐るべし。そのひと言。

  (農民文学賞作家)

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