苫小牧市内の居酒屋やバーなどで20年以上働き、今は錦町で「Bar Genie(バー ジーニー)」を営む板東悟さん(44)。長年かけて培った人脈は広く深く、常連客が集ってきた。新型コロナウイルス感染拡大により昨年、売り上げはほぼ半減したが「『大変だろうけど頑張って』と声を掛けてくれたり、少人数で来店してくれたりするお客さんに支えられた」と感謝の言葉を口にする。
国が緊急事態宣言を出した昨年4~5月は休業要請を受け入れて休んだが、その後は「足を運んでくれる人のために」と店を開け続けている。胆振管内の感染拡大で錦町や大町の繁華街は閑散とし、「活気がなくなった。まちを歩くと寂しい」。平日は訪れる客がゼロの日もあり、ただ待つだけの時間も増えたが、「何とか耐えながら営業を続けていくしかない。何とかなる」と言い聞かせる。
休業要請への協力などによる支援金、売り上げ半減に伴う持続化給付金を受けたが、年間ベースにすると売り上げ減少分の補塡(ほてん)には至らない。個人事業主にとって最大100万円の同給付金は「短期間なら乗り越えられたかもしれないが、まちに客足が戻るめどが見えない。かなり厳しい」と胸の内を明かす。先細りしていく支援内容に飲食店業界全体の危機を感じるが、「従来の営業方法を見直す機会」と前向きに捉えるよう努めている。普段と変わらぬ会話を常連客と交わすとき、少しだけ気持ちが和む。
2016年に独立し、大町に同店をオープンした。ところが17年、近隣店の火災に巻き込まれて全焼。別の店舗を借りて営業を再開したつらい経験がある。だが「たくさんの方が応援に駆け付けてくれた」。コロナ下の苦境がその当時と重なり、「支えてくれるのはお客さん。いつも来てくれる方の思いを大切にし、その気持ちに応えられるよう頑張っていきたい」と「原点」を胸に刻む。
店内の消毒や換気など感染対策を徹底し、安心してくつろいでもらえる環境づくりを心掛ける。「飲食店は支援の対象になるだけでありがたい。行政をはじめ多くの方が動いてくれている」としみじみ感じながらも、飲食店にとどまらない各業界の疲弊した姿が目に映る。「多くの方に支援が行き届くようになれば」。繁華街ににぎわいが戻る日を願い、夜の街の明かりをともし続ける。
(終わり)
※(この企画は金子勝俊、松原俊介が担当しました)