子ども思いのお母さんという評判の陰で、徳田愛美容疑者(28)=死体遺棄容疑で逮捕=の生活は破綻寸前に追い込まれていた。
苫小牧市内在住の男性は修繕のため昨年11月、徳田容疑者の部屋を訪れ、言葉を失った。床一面に足の踏み場がないほどごみや生活用品、食べ残した料理が散乱していた。台所にも物があふれ、調理などできない状態。壁も至る所に汚れが付着していた。
「まともな生活を送れていないことが一目で分かった」。徳田容疑者から小学生の子どもがいることを聞いた男性は、すぐに生活保護を担当する市生活支援室に電話をかけた。「ちゃんと生活できていない人がいる。子どももいるし、自宅を訪問して状況を見てほしい」と訴えた。しかし「本人を連れてきて」と言われて終わりだった。
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「このままでは取り返しのつかないことになる」。心配した男性は、その後も頻繁に徳田容疑者宅を訪ねた。ほとんど会えずじまいだったが今年春、「一緒に市役所に相談に行く」という約束を取り付けることに成功した。しかし、約束の日時に徳田容疑者は現れなかった。
9月下旬、男性がいつものように玄関チャイムを鳴らそうとしたとき、通路に面した窓から中の様子が目に入った。最初に訪れた時よりも一層散らかった部屋の中で、大泣きする赤ちゃんを抱き、ぼうぜんと床に座り込む徳田容疑者。妙に胸騒ぎがした。
男性はこの時初めて、小学生の他にも幼い子どもがいることを知った。さらに利用料金が支払えないためガスが止まっていると聞き、「もう一刻の猶予もない」と確信。10月、同室に電話をかけて「子どもが死んじゃうよ!」と強く訴えたところ、ようやく市こども支援課が相談に応じた。昨年11月から数えて、5度目の電話だった。
子ども1人の命がすでに失われていた。
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あともう少しだけ、この手を伸ばしていれば―。迎えてしまった最悪の結末に、男性は後悔し続けているという。市に対しては、なぜすぐに動いてくれなかったのかという憤りもあるが、それ以上に「困っている人を助けられる相談体制になっていないことに驚きと疑問を感じた」と語る。
「困っている親が自ら声を上げてくれるのを待つ―という今の体制では、救えない命もあることが分かった」と男性。「自分からは助けを求められない人が発するSOSにいち早く気が付けるのは、地域に住むわれわれ。市は地域からの相談に真剣に向き合ってもらいたい」と訴える。