秋の渡りの季節がやってきました。この時季、多くの野鳥たちが冬越しのため、北から南へと移動します。ウトナイ湖にもつい先日、ロシアの大地で夏を過ごしていたマガンやヒシクイが姿を見せました。越冬地である本州を目指す旅の途中、湖で羽を休めているところでした。
このように、自然界に生きる鳥たちの多くが、「渡り」を行います。「渡り」とは、餌資源や環境、繁殖などの事情により、定期的に長距離を移動する行動で、種によって渡るタイミングやルートが異なります。日本で観察される野鳥の、実に半数以上が渡りを行うとか。そのため、私たちの身近な環境でも、多くの野鳥が冬越しのために南方を目指します。ですが、この長距離飛行中に、不慮の事故に遭ってしまう野鳥も多く、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターには、特にこの秋の渡りの時季である10月下旬ころまで、1年間で最も傷病鳥の搬入が多くなります。
今シーズンもさっそく立て続けにセンダイムシクイ(スズメ目ムシクイ科)が3羽保護されました。この種はウグイスに近い種で、体重10グラムほどの小さな鳥です。夏は北海道や本州などで繁殖を行い、子育てが終わると冬はタイやマレー半島などの東南アジアで過ごします。おそらく、越冬地へ向けて渡り始めたころだったのでしょうが、建物に衝突し、飛べずにいるところを保護されました。幸いにして、いずれのセンダイムシクイも明らかな外傷もなく、間もなくリリースとなりました。
このような小鳥の衝突事故では、一過性の脳しんとうを起こしていることも多く、しばらく保温や安静措置を取るだけで、回復するケースも少なくありません。そうはいっても、この小さな体で、これから先も待ち受けているであろう多くの障害物や天敵から身を守りながら、飛び続けなければなりません。目指すは、はるか南、東南アジア。今回の事故が、どうか旅の支障にならぬよう心から願うとともに、壮大なスケールで命がけの旅を続ける渡り鳥たちにも、精いっぱいのエールを送りたいと思うのでした。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)
※10月から第3金曜日に掲載します。