たもとを分かった白鵬さんと相撲協会のはざまで置き去りにされたのは弟子たちだ。記者会見で「愛情は全く変わっていない」と強調したが、成長を間近で感じることはもうできない。最後は新たな夢への思いが勝った。
今後は相撲を世界に伝え、裾野拡大に注力する。在職時から「白鵬杯」をはじめ、女子相撲の「ドリームガールズ杯」の開催に協力するなど、普及活動に熱心だった。協会にとどまっても「世界相撲グランドスラム」構想に近い目標は達成できたはず。なぜ、もう少し我慢できなかったのか。
閉鎖前の宮城野部屋には約20人の力士がいたが、この1年で半数が角界を去った。実は、別の部屋への転籍が検討された時点で複数の力士が引退を示唆。力士が個人的な事情で部屋を移ることは原則、認められておらず、彼らに逃げ道はない。
多くの関係者から退職を思いとどまるように説得されたが、「(部屋再開が)いつというのが明確にされなかったのが大きい」と翻意しなかった。一方で、このまま伊勢ケ浜部屋に残る自らの弟子が「横綱、大関になる姿を見たかった」と寂しさを募らせた。
貴乃花さんらに続き、またも横綱経験者が親方としての定年を待たずに退職。白鵬さんは華々しい実績を持ち、抜群の知名度を誇る。相撲協会は貴重な人材を失った事実と向き合い、志半ばで土俵を去った若者たちにも、思いをはせてほしい。