先日、バーで知り合った人と組織の在り方について語り合った。その人の職場には「沈黙の美学」を信条とする人物がいるという。
多くを語らず、意見を求められると「もう少し様子を見よう」と静かにほほ笑む。部下が方針を仰げば「君の判断に任せる」と柔らかく言う。いかにも寛容で自由な空気を尊ぶリーダーに見えるが、知人はそうでもないという。実際には誰も次の一手を描けず、チームは次第に迷路に迷い込んだそうだ。
さらに続ける。
知人は求められた資料を作成して提出し、特に指摘はなかった。ところが締め切り直前になって「これで大丈夫なのか?」と曖昧な問いを投げ掛けられ、困惑したという。この場合、何が正解だったのか。
組織にとって、進むか、立ち止まるかを決めるときには明確な判断が不可欠だ。曖昧さはやがて疲弊を生み、責任なき自由は混乱を招く。リーダーの沈黙は、時として最大の無責任となることもあるのだと感じた。(松)