フィリピンで「最も美しい」とされるパラワン島で、違法(いほう)な森林伐採(ばっさい)や漁業など自然破壊(はかい)をする人たちと闘(たたか)う市民団体の活動を描(えが)いたドキュメンタリー映画「デリカド」(2022年)が公開中です。団体代表で弁護士のロバート・〝ボビー〟・チャンさんが来日、東京都内で取材に応じました。
▽失われる自然
急速に経済が発展するフィリピンでは、2002~24年に約19万6000ヘクタールの熱帯雨林の原生林が失われたとの調査結果もあります。パラワン島は最後に残された自然の秘境として人気で、投資家や政治家が観光開発を進めています。そのため、森林の違法伐採をする人が絶えず、ボビーさんが代表を務める「パラワンNGOネットワーク」(PNNI)がそれを止める活動をしています。
▽武器を持つ相手に
メンバーは武器などは持たずに密林を歩いて移動し、チェーンソーの音を頼(たよ)りに忍(しの)び寄り、伐採をやめさせます。話し合い、違法なチェーンソーを没収(ぼっしゅう)しますが、相手は銃(じゅう)を持っていることもあり、ボビーさんの友人のメンバーが殺されました。フィリピンでは環境(かんきょう)を守る活動家が大勢殺されています。
自然を保護する地元町長がボビーさんたちと協力しますが、当時のドゥテルテ大統領=逮捕(たいほ)され国際刑事(けいじ)裁判所で公判中=から圧力がかかりました。ボビーさんも有力者から脅(おど)されました。しかし、メンバーはあきらめません。
▽子どもたちのため
取材でボビーさんは話しました。「地域の自然を守るのは次の世代の子どもたちのため。それが最大の目的です。そして、私たちはキリスト教カトリック信者なので、神からの贈(おく)り物の美しい自然を守りたいということもあります」
違法伐採をやっている人も貧しくて仕方なくやっている面もあります。だから、話し合って解決します。ボビーさんは「どんな問題でもしっかり観察して学ぶことが大事です」とした上で、「日本も動植物や自然の資源を守ることを意識してください。フィリピンでの現実を知って、自分たちの地域はどうだろう、と考えてみてください」と話しました。
「デリカド」はシアター・イメージフォーラム(東京)ほか各地で順次公開。日程は公式ホームページで。7月以降は自主上映会にも対応。
相手は強大で簡単には勝てない。「死んだ仲間の名誉(めいよ)のためにも、未来の子どもたちのためにもあきらめません」と話すボビーさん=5月30日、東京都千代田区PNNIの事務所の前には没収したチェーンソーがタワーのように積まれていたⒸKarl Malakunas森林と海が美しいパラワン島の風景ⒸDelikado LLC