人の名前を呼ぶ時は、通常「さん」「君」「ちゃん」などの呼称を付ける。「さん」を使えば、一定程度の心理的距離感を、「君」「ちゃん」はその心理的距離感の近さ、すなわち親しさを表現することができる。同時に、関係性の上下も見えてくる。
日本語の使い手であるわれわれは、相手との関係性によって言葉を上手に使い分ける。例えば、立場や年齢が上の人と話す際は、より丁寧な言葉遣いが求められる。一方、自分よりも若く、また立場的にも下だと思う相手の場合は、その丁寧さは軽減され、フランクな言葉遣いであっても大きな問題にはならない。これに合わせるように呼称を使い分ける。
しかし、いつでもこのルールが適用されるわけではない。心理的距離感の近さが上下関係を超えた時、親しみを込めて相手の名前を呼ぶようになる。呼び捨てになるだけではなく、ニックネームで呼んだり、ニックネームに「ちゃん」を付けたりすることもある。これが、外国人にとっては難しい。
年齢を直接聞くと失礼にあたる国は少なくないが、ベトナムのように年齢を確認しないと呼称が決められない国もある。そのような国の人にとっては、相手に年齢を聞くことはむしろ重要な行為となる。
相手との関係性によって呼称を使い分けなければいけない一方で、年齢を尋ねるのが失礼にあたる日本。年齢を聞かなければ、呼称を決められないベトナム。外国人とともに仕事をする機会が多くなった昨今、私たちの呼称ルールの背景にある文化的価値観をいま一度認識するいい機会かもしれない。
(HISAE日本語学校校長・苫小牧)