海上で人や物の輸送を担うフェリーも、新型コロナウイルスの感染防止に力を入れている。苫小牧港を発着するフェリー各社は、カウンターへのビニールシート設置や乗船手続き前の検温などが当たり前になった。旅行需要の低迷が続く中、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保ちながら利用者数をどう増やすか。試行錯誤が続く。
6月中旬、苫小牧港・西港のフェリーターミナル。停泊していた商船三井フェリーの「さんふらわあさっぽろ」(1万3816トン)では乗務員27人が検温し、体温をチェックシートに記入していた。
フェリー業界に勤務して39年目という接客チームのマネジャー、中原利文さん(56)は「こういう事態は初めて。乗務員から感染者を出さないよう予防に万全を期したい」と話す。
航海中は、乗務員が消毒作業を徹底。案内所の整理整頓やレストランの調理もマスク姿だ。午後6時45分に苫小牧港を出港し、大洗港(茨城県)へ向かった船には乗客58人が乗り込んだが定員(590人)の1割にも満たなかった。
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コロナ感染拡大による往来自粛などを受け、フェリー旅客は激減した。苫小牧海事事務所のまとめによると、ゴールデンウイークなどで例年書き入れ時となる5月の旅客は全7航路で減り、前年同月比70・8%減の2万5332人。過去最大の減少幅となり、提供するサービスも大幅に変わった。
商船三井フェリーは、2月から船内でのイベントを休止。3月からは食事をバイキング形式から定食提供に切り替えた。キッズコーナーは閉鎖し、船長服の貸し出しも中止した。
感染防止対策を続ける中で、社員の意識にも変化が生まれている。同社苫小牧支店によると、手指消毒やうがいを徹底させた効果か、インフルエンザの罹患(りかん)者は少なかった。検温や誘導で定期的に接するトラックドライバーとも顔見知りになった。
同店の安生秀明支店長(52)は「各社切磋琢磨(せっさたくま)し、直接利用者の声を聞くこともできた。すべてがマイナスではない」と語る。
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6月19日に都道府県をまたぐ移動自粛が解除されたのを受け、フェリー各社は乗客を回復させる取り込みに力を入れる。太平洋フェリーと川崎近海汽船、新日本海フェリー、商船三井フェリーは一時休止していたNEXCO(ネクスコ)東日本の商品「北海道観光ふりーぱす」との連携キャンペーンを今月再開。利用者は道内の高速道路を無料で使用でき、運賃などが割引される。
新日本海フェリーは「就航50周年寄港地市民割引」と銘打ち、9月1日から10月31日(9月18日~22日を除く)まで、苫小牧や厚真町などの住民が同社の航路を利用する際、全客室や乗用車、自動二輪車の運賃を半額にする。商船三井フェリーも9月から来年3月末まで(一部対象期間外あり)、一人旅の応援企画として2~3人用洋室の船室貸し切り料を無料にする。
船社によっては、団体予約が入ったことで一部を貸し切り、300人以上が乗船する日も出てきた。感染予防へ地道な取り組みが続く。安生支店長は「人と物の流れがあってフェリー業界が活性化する。フェリーの魅力を再発見する年になってほしい」と願っている。
(室谷実)