新千歳空港から長野県の松本空港へ向かったことがある。滑走路を目指して降下旋回する時、標高1000メートルはあると思われる尾根の先端に小さな集落が見えた。10年ほど前のことだ。
北海道なら気温や積雪、ヒグマの生息などを考えればとても人が常住できる場所とは思えない。どんな歴史があって、あの山上に住んでいるのだろう。学校は、買い物は、医療は―と勝手に想像している間に飛行機は着陸の方角を捉え、円い窓から集落は消えた。
「ポツンと一軒家」という番組が日曜夜の北海道テレビ放送にあって、よく見る。航空写真に写った山中の一軒家を訪ねる番組だ。「どうしてここに。不便ではないですか」などと聞く以外の会話はない。きっと、見ているこちらに「もし自分なら」と考えさせるのが主題。ここで育った。子どもを育てた。退職後に探したなどの説明を聞きながら、便利とは何か、古里とは、家族とは、寂しさとはと、いろいろなことを考える。
新型コロナウイルス感染禍で、巨大な都市での過酷な通勤や労働を標準と思っていた人たちの心に変化が表れているらしい。そんな視点で朝夕のニュースに特集が組まれる。在宅勤務が広がり、若年労働者の地方指向が高まっているそうだ。けさのテレビには「どこでもオフィス」という新語も。
未明の雨の上がった空や山々を見回した。豊かな自然は当然。北国の静かな初夏が心地よい。(水)