白老アイヌ協会理事長 山丸和幸さん(71) 「これからがスタート」 地域の文化伝承へ決意新た

  • アイヌ民族 ウポポイを思う, 特集
  • 2020年5月11日

  「若い人が誇りを持って頑張っている。『アイヌに生まれてよかった』と自信を持って働いている」

  アイヌの踊りや音楽、工芸などの素晴らしさを伝えようと、民族共生象徴空間(ウポポイ)で準備を進める若者たちを温かい目で見守る。白老アイヌ協会の理事長として開業を心待ちにしてきた。「ウポポイができて終わりではない。ウポポイができてスタート」。アイヌ文化の復興、発展の新たな拠点に期待しつつ、実は複雑な思いも抱いている。

  ポロト湖畔のアイヌ民族博物館で30代半ばから働いてきた。同博物館の創立者で父の武雄氏を手助けし、アイヌ文化の伝承に努めてきた。地元の野本亀雄氏や静内町(現新ひだか町)の葛野辰次郎氏、織田ステノ氏ら町内外の伝承者に教えを請い、カムイノミなど儀式も執り行った。「アイヌにとってもすごいエカシ(長老)、フチ(おばあさん)に教えてもらった」と感謝する。

  年齢や経験を重ねる中で後進への指導はその教えを忠実に守り、必ず先人の名前を出すようにしている。「自分が言っても説得力はない」と謙遜する。「教えてくれた人に対する恩返し。江戸、明治初期のアイヌ文化をきちんと伝承してきた人の話をすることで先祖の生き方も感じてもらえる」。色あせない教えを大事に伝えてきた。

  そんな白老アイヌの活動拠点だった同博物館は、ウポポイの整備に伴い2018年に閉館。「ウポポイができても、白老のアイヌにとって、プラスアルファは今のところ何もない」というのが率直な感想だ。国立博物館ができるがために、白老のアイヌ文化を伝承する場所が失われた格好で「白老にとってはものすごい悩み。自分たちでやれることは自分たちでやらないと」と気を奮い立たせる。

  ウポポイは道内各地からアイヌの生活用具など1万点を集め、楽器の演奏や製作、刺しゅう、木彫りなど幅広い体験を用意するが「白老でアイヌ文化を一堂に見られるというだけでは駄目」ときっぱり。アイヌ文化には地域差があり、地域で根付いてきたからだ。「寄せ集めて平均的にすれば、どこのアイヌ文化を伝えているのか分からなくなる」と指摘する。必要なのは地域でアイヌ文化を伝承し、公開できる場で「国は地域の頑張りに力を貸してほしい」と訴える。

  一方で、冷静な視点も忘れない。白老のためだけの新たなハード整備を望めるはずもなく、ある意味ピンチをどうチャンスに変えるか。他の地域がまねできないソフトを作り上げ、アイヌ文化のモデルケースのまちにしたい。「われわれがきちんと伝える役割を担わないと」と決意を新たにし「新型コロナウイルスで自粛している間は無理にオープンしない方がいい。ここからが始まりなんだから」と力を込めた。

  白老町で29日に予定されていたアイヌ文化施設・ウポポイの開業が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて当面延期されることになった。各方面から残念がる声も聞かれる中、アイヌ当事者がウポポイに抱く思いなどを知る機会に―と胆振、日高、石狩の関係者に話を聞いた。

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