「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」。コンビニなどでトイレに入るとたまに見掛けるメッセージ。「まだ使っていないのに」「遠回しに『汚すな』と言っているのか」などと受け止めはさまざまだろうが、怒る人は「汚しているのに感謝されるいわれはない」と矛盾に苦しんでいる人だと聞いたことがある。人の脳には、矛盾を嫌う性質があるらしい。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、不要不急の外出自粛を求められても「気にならない」とマスクも着けず、人混みを目指す人たちが後を絶たない。感染予防には人の移動を止めるしかないが、どうすればそうした人たちに自粛メッセージは届くのか。ニューヨークでは、急増する患者の対応に当たる医師らに敬意を表そうと毎日午後7時、外出を制限されている市民が自宅の窓を開けて拍手を送っているという。
私たちもそんな姿勢を見習いたい。危機感の薄い人には回りくどくても「外出自粛に協力してくれてありがとう」といった逆説的なメッセージも駆使し、あの手この手で啓発するしかない。あれは駄目、これも駄目と注意したり、恐怖心をかき立てるばかりではなく自発的な行動を促す一工夫が求められている。オーバーシュート(爆発的患者急増)を防ぐ正念場。最悪の伝染病終息に貢献できる報道について、トイレの張り紙を見詰めながら改めて考えた。(輝)