慌ただしい季節。入学、就職、人事異動。新型ウイルスで社会や経済に停滞と縮小感が漂う中でも新生活の準備を急ぐ人は多い。
新たな環境に踏み出す時は緊張する。わくわく感は楽しみを大きくし、不安は迷いや憂うつな感情を生む。願わくは「ピッカピッカの1年生」のイメージのように、瞳を輝かせて上を向き、希望を持って歩みだしたい。振り返れば、期待と不安の中で環境になじみ、人との距離感をつかむまで少しの間、疲労を伴う緊張感との付き合いが続いた。気持ちを奮い立たせることが多くなる。
ただ新社会人には、未経験の生活に向けて心をリセットし、志を立てるきっかけにできる場が用意されている。卒業式は一つのセレモニーだけれど、振り返り気持ちにけじめをつけ、未知の歩みに勢いをつけられるスイッチだ。新型ウイルスはそうした機会を、間もなく社会に出る若者たちから奪った。大事な時に寂しい思いを刻むのは切ない。後に笑い話になるだろうが、節目の志にこの言葉を重ねてほしいと願う。憧れるほど強く、真っすぐで気高い詩と言葉。
「自分の住むところには/自分で表札を出すにかぎる。/自分の寝泊りする場所に/他人がかけてくれる表札は/いつもろくなことはない。/(略)/精神の在り場所も/ハタから表札をかけられてはならない/石垣りん/それでよい。」(石垣りん 表札)
出発の人に送るエール。(司)