㊦ 土居ハスカップ農園代表。土居元さん(42)農作業を楽しむ、観光農園の再開目指して

  • 特集, 胆振東部地震から1年半 今を生きる
  • 2020年3月7日
「不安ばかりじゃ前には進めないから」と土居さん。後ろにはまだ土砂崩れの爪痕が残っている
「不安ばかりじゃ前には進めないから」と土居さん。後ろにはまだ土砂崩れの爪痕が残っている
山腹崩壊で土砂が流れ込んできたハスカップ農園=昨年5月、厚真町朝日
山腹崩壊で土砂が流れ込んできたハスカップ農園=昨年5月、厚真町朝日

  胆振東部地震で大きな被害を受けた厚真町朝日にある土居ハスカップ農園。山腹崩壊で敷地にせり出した土砂は昨年末に撤去されたものの、失われた苗木が戻ってくるわけではない。山に刻まれた深い傷痕は今もそのままの状態で残っている。だが、「今は不安よりも楽しみの方が大きいかな」。代表を務める土居元(はじめ)さん(42)は、そんな逆境にも笑顔を見せる。「確かに震災があって大変だったけれど、マイナスもプラスに捉えて進んでいきたい」と語る表情はどこか晴れやかだ。

   厚真の地で祖父の代から3代続くハスカップ農園。「多くの人にハスカップを知ってもらおう」をモットーに、収穫シーズンの6月下旬から7月中旬には観光農園を開き、道内各地からハスカップ狩りにとファンがやって来る。環境に配慮した安全でおいしい実を提供し、全国からも取り寄せの注文が来るなど多くの支持を得てきた。

   2018年9月6日に発生した大地震で状況が一変する。離れたところにあった自宅と家族は無事だったが、隣接する山は大きく崩れ、農園にも大量の土や木が覆いかぶさった。長い間育ててきた300本にも及ぶ苗木が、一瞬にして土砂にのみ込まれた。それ以外にもあちこちに地割れや陥没、隆起が発生。足元がでこぼこの状態になった。

   「お客さまにけがをさせるわけにはいかない」。安全確保を第一に考えた時、観光農園を中止にする苦渋の決断をせざるを得なかった。思うように手入れができず、生育の悪さも重なったことから収穫量は格段に落ちた。

   だが、下を向いてばかりはいられない。「地震があったから頑張ろうではなく、背伸びせずにできることをやっていこう」と、この1年間は出荷に専念。その傍ら苗木の植え替えや早期再開に向けて危険な箇所の修復など「震災の前にはやらなくてもよかった」手間作業に精を出した。

   未曽有の大地震から1年と半年。雪が解ければ、仕上げの剪定(せんてい)作業と、空いているスペースにまた苗木を植える作業が始まる。昨年できなかった観光農園を「今年はできたら」と考えてはいるが、「どれだけの規模で修復ができるのか、今の段階では見当も付かない」。それまでにやらなければならないことは、数えだしたら切りがない。

   ただ、これだけは言える。「たくさん実がなってくれる年になればいいなって思うけど、一番は農作業を楽しむこと」。先行きは不安だらけだが、「それもひっくるめて楽しめるように頑張りたいね」と懸命に前を向く。(石川鉄也)

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