JR苫小牧駅前の旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」が立地する土地をめぐり、苫小牧市の不動産業大東開発が市を相手取り、損害賠償を求めている民事訴訟は17日、札幌地裁室蘭支部で判決が言い渡される。「駅前の顔」が長らく空きビルとなり、中心市街地の再開発もままならない中、判決は課題解決の一里塚となるか。訴訟についてQ&A方式で解説する。
Q いつから、なぜ裁判をしているの。
A 2019年1月に不動産会社の大東開発(以下同社)が、旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」の土地をめぐり、苫小牧市(以下市)に損害賠償を請求した。ビルは現在、市が所有しているけど、同社は土地の一部約1070平方メートルの地権者。財産権が侵害されていると主張している。土地の利用について合意も契約もしておらず、「市が土地を不法占拠している」と訴え、賃料など約460万円を支払うよう求めたんだ。
Q 地権者が賃料を求めるのは当然の事のようだけど。
A ところが市は真っ向から反論している。市はあくまでも一時的に介在している立場を主張。同社の訴えも「権利乱用」として応じなかった。市は使いたくてビルを持っているのではなく、空きビル状態を解消するため、土地や建物の権利集約に動いたことが背景にあるんだ。中心市街地を活性化してくれる事業者があれば、ビル解体を条件に無償で譲り渡して使ってもらう考え方が根底にある。裁判所が選んだ保全管理人の要請に基づき、いわば裁判所のお墨付きを得たという認識なんだ。
Q どうして権利を集約する必要があったのかな。
A 14年4月にビルを運営していた株式会社サンプラザが、裁判所に自己破産を申請したけど、建物や土地の権利関係が複雑過ぎたこともあって裁判所が認めなかった経緯があるんだ。当時、建物、土地の権利者は29個人・法人。抵当権のある物件もあった。一般論だけど、権利関係が複雑な物件を、買いたい人はなかなかいない。自己破産の再申請や裁判所による保全管理命令なども経て、同社を除く28個人・法人は市に協力してくれたんだ。「駅前の顔」がずっと廃虚じゃ嫌だからね。
Q 裁判になる前に何とかならなかったの。
A 裁判資料によると、当事者同士が少なくとも3回は会って、問題を解決しようと協議した。市は他の個人や法人と同じように、同社にも土地の寄付をお願いした。でも同社は「三星発祥の地」として大事にしている土地で、市の提案に乗ることはなかった。同社会長の三浦実氏はパン菓子製造の三星社長も兼ねていて、ビル跡地の活用を同社独自で考えているんだ。
Q 「空きビル」を何とかしたいという思いは一緒なのに歩み寄れなかったんだね。
A 裁判資料でも主張は異なり、双方の溝は埋まるどころか広がる一方だったようだ。
例えば三浦氏と岩倉博文市長が市役所で面談する機会もあったようだけど、市側は跡地利用の事業主体になる意向を同社に尋ねたが、「賛同できないと返答された」(裁判資料より)と主張。一方、同社側は「雑談しただけで終わった」(同)という認識で、「市長に対し『何の話で呼んだのか』と質問したほど」と反論している。
18年5月に同社が賃料を請求する催告書を市に提出すると、市は同社が土地を取得した経緯を問題視するなど、当事者同士で解決できる雰囲気になかなかならなかったようだね。同社側は継続的に不利益な状況が続けば、土地をなし崩し的に寄付させられる状況に陥るなどと考えたようだよ。